火の御子峰 17時間の格闘
- GPS
- 16:12
- 距離
- 29.0km
- 登り
- 2,988m
- 下り
- 3,413m
コースタイム
- 山行
- 0:18
- 休憩
- 0:00
- 合計
- 0:18
- 山行
- 13:46
- 休憩
- 1:59
- 合計
- 15:45
天候 | ピーカンのちホワイトアウト |
---|---|
過去天気図(気象庁) | 2021年05月の天気図 |
アクセス |
利用交通機関:
自家用車
自転車
|
コース状況/ 危険箇所等 |
市ノ瀬〜別当出合 週末は工事車両はいなくて安心安全。 別当〜白山 雪解けが進む1650m辺りは暗いとルートが不明瞭、残雪が多くなるとどこでも歩ける。黒ボコ、エコーライン共トレースがあり迷うことはない。 大汝峰〜仙人谷〜火の御子峰〜地獄谷 大汝から先はノートレース、雪が緩んでいれば滑落の危険はない。 火の御子峰にはベテラン経験者でも十分な装備がなければ立ち入ってはならない。進退窮まれば帰還することも困難になり遭難事故の恐れがある。 |
写真
装備
個人装備 |
登攀道具一式<br />アブミ2
捨て縄15m
60mロープ
アックス
バイル
ウィペット
スノーバー1
アイゼン
|
---|---|
共同装備 |
ハーケン10
鉄筋棒10
リンクカム
30mロープ
|
感想
男はやるときにやらねばならない。そう、リベンジを誓っていたらいつかは攻略しないといけない。4年前にYSHRさんとなにわ君とで力を合わせて登頂した火の御子峰、日本国内でも登頂が困難なピークに立てて幸せだった。しかしその2週間前に火の御子峰の南にある2004峰で敗退してピークに行けずリベンジを誓っていた。やるしかないだろう、念入りな準備と計画…、若者と2人で白山に新たな記録を作りに行こう。
4月に登攀道具を歩荷して室堂にデポしてある、そして3日前にスキーを使って仙人谷を滑降し下見をした。2004峰ルンゼは見えないが取りつきまでは安全に行けることを確認した。深夜23時に市ノ瀬からチャリリン開始、気合が入っているからガシガシ漕いでいく。荷物は重いが35分で別当に到着、若者は5分遅れだった。暖かい夜なので大汗かいても大丈夫、すぐにスタートした。3日前より雪解けが進み登山道は相変わらずの不明瞭、藪を漕いで登った。
雪が出てくれば後はガシガシ行くだけ、しかし気温が高いからザク雪でプチラッセルとなった。甚之助上に先行者のライトが見えた、いったい何時に出てどこに行くんだろう。黒ボコ方面に進んでいった。僕たちはエコーラインから行く。ずっとラッセルなのでしんどいが暗闇の中を突き進んでいく。
2時半に室堂に着きデポしておいた登攀具をザックに詰め込んだ、メチャ重い、室堂から先もラッセルなので拷問でした。
山頂はスルーして大汝峰鞍部に向かう、振り返ると先行者は後続になっていた、エコーラインのほうが早かったみたいだ。
暗闇の鞍部に着きお花松原まで急斜面を下降する、ここも雪が緩んでいて靴上ラッセルとなった。下りなのでマシだけど今日はスパッツを持ってきていないから靴に雪が入ってとても不快だった。サクッと下降して薄明るくなってきた仙人谷を下降する。ここも雪は緩んでいるが超急斜面なのでアイゼンを履いていく。1700mまで下って2004峰ルンゼに向かう、ここに立ち入った人はいないだろう。
地獄尾根は地形図と現地では全く違うし行ってみないとわからない部分が多い、このルンゼも同じでルンゼ入り口の地形図は岩マークになっている。下から観察する、左右にルンゼがありそうだ。雪が繋がっていそうな左ルンゼから行くことにした。
登攀具を身に着け狭いルンゼに取りついた、いきなり核心、雪が切れていた。アイゼンの爪に岩の凹凸にひっかけクライミングをしていく、岩でのアイゼンワークが出来なければ行けないルートだ。若者にはロープを出して登ってきてもらう、今日はあなたがいなければ記録は達成しないんだ。
次から次へと核心が現れる、大きな口を開けたシュルンドを覗き込むと深く切れ込んだ細いルンゼの底が見えていた、とても険悪だ。さてこれどうやって進もうか、飛び道具はたくさん持ってきているので攻略できた、これ準備不足ならここで敗退だった。
この先は雪が繋がっている、ラッキーだけど安心できない。この急傾斜は半端ではない、絶対に滑落できないし上からの落石も要注意だ。監視しながら交代で高度を上げていく、ようやく狭いルンゼから出ると岩峰にぶち当たった。想定内だけど現実はとても厳しくルーファイミスは許されない。
右は目的のコルだけどわずかに残る雪を繋いで際どいトラバースをして左から行く、ルートはここしかない、岩峰を回り込むとルートはあった、やはり左が正解であった。目的のコルが見えているが超いやらしいトラバースをしないと行けない、僕が先頭でルートを作り地獄尾根に上り上げた。
第一関門突破、このルンゼは初登攀だろう。2004峰のピークに立つ、4年前を思い出した、とても悔しかったな。さあ第2関門だ、火の御子峰手前の最低コルまでのルート攻略だ。貧弱な低木に支点を作り懸垂1回目、地獄の1丁目1番地に降り立った。4年前に敗退下降した支点が残っていた、飛び道具を追加して今日はこの先を行く。足元はザクザクと崩れ若者は馬乗りで尾根を行く。2回目の懸垂はとても際どい、尾根通しでは進めないから下降とトラバースをしながら高度を下げていく。手でつかむ岩も崩れていく、地獄のど真ん中です。大きな岩に捨て縄で支点を作りセルフを取る。3回目の懸垂で最低コルに下りれそう、しかしここも甘くない、アイゼンをひっかけながら際どいトラバース、若者は半泣き状態だった。何とかコルに降り立ち第2関門突破、リベンジ達成です。
ここから最後の核心までフリーで行けるからロープを一旦しまうので先に行っててちょうだい、馬乗りになりながら進んでいった。
さあ第3関門、たった20m程の登りだけど核心だ。4年前より更にボロボロになっている、もう何年かたてば登れなくなるんじゃないか。ビレイしてもらい支点を作りながら登攀していく、積み木のような岩を崩さないようにアイゼンの爪をひっかけてよじ登る、どこまでも続くボロ岩は緊張の連続でした。際どく登り上げ第3関門を突破、残置の支点を作り直して若者をビレイして登ってきてもらう、さあピークはすぐそこ、気を抜かないで行こう。
4年前の登頂から誰も登っていないんだろう、一歩ずつ進みながら感慨深い気持ちが込み上げてきた。そして着いたぜベイビー、若者も頑張ってくれた、ここが正真正銘の火の御子峰のピークだよ。がっちり握手をして休憩した。記念写真をたくさん撮って絶景にうっとりする。ここにいつまでもいたいが現実に戻ろう、ずっと遠くに見える大汝峰まで登り返さないといけない。
帰りはYSHRさんと登ったルンゼから地獄谷に下りて周回する。支点を使って60m懸垂、更に30m懸垂でルンゼに降り立った。相変わらずマシンガンのように落石が襲ってきた、石に当たれば終わり、火の御子峰は行きも帰りも全く気が抜けないとても危険な山です。
ルンゼはクライムダウンで下りる、お互い監視しながら落石を避けて下っていく。そしてやっと安全地帯の地獄谷に降り立った。感無量、後は登り返して周回を完結させよう。
谷を遡行して高度を上げていく、正面に見える稜線はお手水鉢の鞍部だ。ザク雪のラッセルで体力が消耗していく、水の残りも少なくなってきた。運よく滝があったので水分補給をした。ん…元気が出てきたぞ。右の沢から七倉山に登り上げ遠回りしよう、男なら行くべ。
やめとけばよかったが後の祭り、天気が崩れてきた。大汝に上り上げるころには雲の中、強風が吹き荒れホワイトアウト、室堂も弥陀ヶ原もホワイトアウトでした。室堂の建物で風を避けて休憩していたら若い外人が下山していった、後を追うように下山開始、黒ボコ下でやっと雲の中から出て視界が開けた。先ほどの外人が見えない、えらい早いな。視界があれば快適な靴スキーで下っていく、あっという間に甚之助小屋が見えた。
小屋にはスキーヤーや登山者が数名いるのが見えた、先ほどの外人もいたが僕の姿を見ると走って下山していく。ムム…、疲れているがバトルとなると話が違うぞ。靴スキーを使うと差が短くなってきた、ロックオン、忍者のように後ろを行く。突然振り返り日本語で早いですねと言いながら登山道を走っていった。荷物が重いが僕も走る、お互い汗だくで別当にゴール、自撮りで写真を撮り後はチャリで帰るだけ。
ん、写真撮っているうちに外人がロードバイクで下って行った、ヤバい、チャリにまたがり追いかける、もう外人は安心しているのかすぐに追いついた、そして直線でぶち抜き猛ダッシュ、後ろを見ると必死に追いかけてきた。抜かれることなく市ノ瀬にゴール、火の御子周回とバトルができて幸せだ。
若い外人さん、帰りにどうもありがとうとあいさつしてきたので手を振って別れた。
終わってみれば火の御子峰周回17時間、白山にまた新たな記録を作れてとても幸せ、完全燃焼です。
コメント
この記録に関連する登山ルート
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ブログの更新が珍しく遅かったので、どちらに行かれたのかワクワクしておりましたが、まさかこちらとは!
四年間も登山者がいなかったのがそれを物語っているのか、凄まじい景色に圧倒されてしまいました。
cliffleeさんコメントありがとうございます。
今回の挑戦はもう最後であろう4回目、敗退すれば負け越しでしたので気合を入れていました。
成功のカギは4月に室堂まで歩荷しておいた重い登攀具デポとスキーを使って偵察に行けた事が大きかったです。
地獄尾根、火の御子峰は核心だらけですけど、今回の山行では2004峰ルンゼが全体の7割ほどの核心だといえます。ここの攻略をなくして成功はあり得ませんでした。5度目の挑戦はないです。。。
久し振りに火の御子峰の記録を拝見しました。5登目くらいでしょうか。ボロボロの岩稜ですからアンカーセットが大変だったでしょうね。すごいです。おめでとうございます。
renさま、ご無沙汰しております。
石川県の岳人なら一度は登りたい火の御子峰…、二度目の登頂でした。
何も記録のない数十年前の松任風露の先人の方々の登頂があるからこそ、後に続くチャレンジャーが現れます。
先人達の記録を見てみたいのですが…。
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