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更新日:2018年07月17日 訪問者数:9123
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登山口までのアプローチに日産e-power
yokota1967
はじめに
山道具というよりも登山口までのアクセスに使う自動車の話である.最近,車を買い替えたのであるが,それまでは日産エクストレイルに11年近く乗っていた.いわゆる100名山のような山に,よく使われる登山道経由で登るためには,公共交通機関,あるいは+タクシーで登山口までアクセスできることが多いが,怪しげな山登りを楽しもうと思うと,未舗装路を走る必要も出てくるので,SUVが便利である.統計によれば,多くの方はSUVを買っても未舗装路を走ることはまずないらしいが,私は本当によくエクストレイルで未舗装路を走った.そのためか,6,7万キロを走行したくらいから,足回りのトラブルが続出した.日産はエクストレイルを本格四駆として売り出しているようであるが,部品の頑丈さはおそらく乗用車と同じレベルで,いわゆるクロカン四駆とは別物だと思う.

比較的安い部品は交換してだましだまし乗り続けてきたが,11万キロを超えるともう危険なところまで来てしまった.駐車場の都合でクロカン四駆には乗れないし,またSUVを買って同じことになるもの嫌なので,未舗装路を走ることを半分あきらめて,発売開始から間もないセレナe-powerを購入した.e-powerは,現時点では,セレナとノートに搭載されており,税法上はハイブリッドに分類されるものであるが,実際は,やや異なる性質をもつ.山登りを趣味にする者としては,登山口までのアクセスに使えるかが興味のあるところである.そこで,セレナe-powerの使用感をヤマノートに寄稿することにした.
ハイブリッド,e-power,電気自動車の基礎知識
ご存知の方も多いと思うが,e-powerは,ハイブリッドというよりも,発電用エンジンを積んだ電気自動車である.エンジンを積んでおり,ガソリンを給油するが,そのエンジンは発電にしか使わず,すべて電気エネルギーに変換して,モーターのみで車を駆動する.したがって,一般のハイブリッド車のようにトランスミッションなどは存在しないはずである.一般のハイブリッド車やリーフのような純粋な気自動車と同様にリチウムイオンバッテリーを搭載し,エンジンで発電した電力はこのバッテリに蓄えられる.10分ほどならばエンジンによる発電を行わずに,バッテリからの電力だけで,つまり電気自動車として車を走らせることができる.

ハイブリッド車とe-powerの違いは,構造的にも運転的にも大きい.e-powerの最大の特徴は,強力な回生ブレーキが簡単に得られる点であろう.あまり詳しくない方のために回生ブレーキについて説明しておく.モータは,電気エネルギーを力学的エネルギーに変換するものであり,発電機は,力学的エネルギーを電気エネルギーに変換するものであるが,モータと発電機は,理論上,同じ構造をしており,どちらにも使うことができる.車の場合,電力をモータ(=発電機)に供給すれば車を駆動することができ,走っている状態で電力の供給を停止すれば,惰性で発電機(=モーター)が回り電力を生み出すことができる.電力が生成されると,その分運動エネルギーが失われるので,車はブレーキがかかった状態になる.これが回生ブレーキである.

一般のエンジン車にはエンジンブレーキがある.これは,車の運動エネルギーでエンジンを回してその抵抗によりブレーキ効果を得るものであり,エネルギーは無駄に捨てられる.ちなみに普通のフットブレーキは,タイヤの回転とともに回っているディスクをパッドで抑え込みその抵抗でブレーキをかけるものである.エンジンブレーキやフットブレーキは,車の運動エネルギーを熱に変換して無駄に捨ててしまうが,回生ブレーキは電力に変換して回収しバッテリに蓄え,次の加速に利用できることが最大の特徴である.これが,ハイブリッド車の燃費がいい理由である.

ちなみに,一切の抵抗がなければ,細かいことは置いておいて,エネルギーゼロでいくらでも走ることができる.自転車で坂を下ってその惰性で坂を上ることを想像してもらいたい.普通は,空気抵抗,タイヤの転がり抵抗などがあるため,最初の位置と同じ高さまでは惰性のみで上がることができないが,一切の抵抗がなければ,同じ高さまで上ることが可能である.逆に坂を上ってから下る場合には,上るために必要なエネルギーを一時的にどこからか借りておけば,下る際に同じ量のエネルギーを回収できて返済することがきる.坂ではなく平地であっても,0から一定速度まで加速する際に必要なエネルギーとその速度から減速し速度を0にするまでに回収できるエネルギーは,抵抗がなければ等しいため,結果として一切のエネルギーの損得なく移動することが可能である.実際には,膨大な抵抗があるため,このようにはならないが,運動エネルギーを回収できる仕組みがあることで,燃費を向上させることができる.

e-powerの場合,アクセルを踏めば電力がモータに供給されて車を加速させ,アクセルを戻すと電力の供給が減り,発電機として機能するようになり,ブレーキがかかる.一般のハイブリッド車でフットブレーキを踏んだ際,フットブレーキとエンジンブレーキと回生ブレーキが同時にかかるようになっているため,回生ブレーキを意識することがないが,e-powerの場合,回生ブレーキを明確に感じることができる.回生ブレーキが強ければ,発電能力も高くなるが,それはモータの発揮できるパワーに比例する.ハイブリッド車と異なり,モータですべての駆動を行うe-power車は,電気自動車と同じ強力なモータを使っているため,回生性能も非常に高い.普通のエンジン車,特にオートバイでローギアで高回転までエンジンを回して走った経験のある方は,アクセルを戻すと強力なエンジンブレーキがかかることをご存知だと思うが,それと同じである.ただし,アクセル操作を慎重にやらないとぎくしゃくした走りになるため,e-power車でもそれを解除して普通のエンジン車のようなフィーリングで走ることができるモードもある.よほどの急減速が必要な場面を除き,アクセルペダルだけで,ブレーキペダルを使うことなく運転できため,eペダル,oneペダルなどと呼ばれている.私も非常に便利だと感じている.

回生ブレーキによるエネルギー回収がハイブリッド車以上に効率的である以外に,e-powerの燃費が良い理由がもう一つある.e-powerの発電用エンジンは,セレナ,ノートともに3気筒1200ccと大変非力である.一方,モータは,セレナ,ノート,リーフともに同じモータを搭載している.発電用エンジン,モータは,それぞれの車種でチューニングが異なるため出力などは若干異なるが,型番はすべて同じである.セレナe-powerの車重は1.7トンを超えるが,少なくとも街中を走っている限りパワー不足を感じることはない.これはモータのパワー(トルク)のおかげであるが,エネルギーの観点から言えば,走らせるのはパワーのあるモーターとはいえ,エネルギーを生み出すのは3気筒1200ccエンジンであるため,これで足りるのかと疑問があるが,これにはからくりがある.普通,街中の走行ではパワーが必要な時間はごくわずかであるということである.これが本質的に重要である.

電力を蓄えるバッテリの立場になって考えてみるとわかりやすい.車を走らせるモータは,パワーが必要な際には一時的には大量の電力を持ち出すが,平均すればそれほどではない.一方,発電するエンジンは,3気筒1200ccと大変非力なので,大量の電力を要求しても供給してくれないが,コツコツと少しづつ供給し続けてくれる.こうした電力を持ち出すモータと供給するエンジンの収支の変動を埋める程度(これが重要)にバッテリ容量があれば,結果的に非力なエンジンで1.7トンを超える車体を走らせることが可能になる.一般のエンジン車やハイブリッド車は,エンジンでも車を駆動するため,車速に応じて,様々な回転数でエンジンを動かさないといけないため,燃費効率の悪い回転数を使わないといけないこともあるが,e-powerの場合,エンジンと車の駆動は切り離されているため,基本(これが重要)は最も燃費効率の良い回転数だけを使っていればよいため,燃費が良いのである.これが,e-powerの燃費が良いもう一つの理由である.
登山口までのアクセスにe-power
さて,いよいよ本題に入る.といっても,これまでに布石は十分に打ってあるので察しの良い方はもう言いたいことはお分かりだと思う.自動車で登山口まで長い坂をずっと登っていかないといけないことがある.例えば,富士山の5合目登山口まで行く場合などである.この場合,市内を走っている場合とは大きく異なり,パワーが必要な状況が長く続く.バッテリ残量が十分な場合は,強力なモータのおかけでパワフルとは言わないまでも十分に登ってゆく.しかし,発電用エンジンが供給できる電力より,駆動用モータが必要な電力が上回っている状況が続くと,次第にバッテリ残量が減り,いずれゼロになる.こうなると,エネルギー銀行の役割を果たしていたバッテリが倒産した状態になり,発電用エンジンが供給できる電力でしか駆動用モータを駆動できなくなる.つまり,駆動用モータはもっとパワーを出せるのに,必要な電力が提供されないことになる.こうなると,3気筒1200ccのエンジンで1.7トンの車を走らせているのと同じ状況にある.一度,発電機で電気エネルギーに変換しているためのロスを考えると,もっと悪い状況かもしれない.

実際には,バッテリ残量がゼロになる前に,モータに回す電力を制限しているようで,あるところからパワーが出なくなる.富士山スカイラインや富士スバルライン,ふじあざみラインを登り切れるくらいにバッテリ容量があれば良いが,残念ながらそれほどの容量はないので,フル充電しておいても10分くらいでバッテリ切れになり,後続車に何度も道を譲る羽目になる.しかも,こうした状況では,発電用エンジンは燃費効率の良い回転数のみで動作させるなどと言っていられず,燃費効率の悪い高い回転数で使わざるを得ない状態である.普段はアクセルペダルとエンジン回転数は無関係であるが,この時ばかりは,アクセルペダルを踏むとエンジン回転数を上がるというエンジン車のような感じになる.

一方,下りは,10分も走るとバッテリがフル充電になってしまう.いいことのように思うが,フル充電になると回生エネルギーを蓄えることができなくなるため,回生ブレーキが一切利かなくなってしまう.もちろん,エンジンブレーキはないので,頼れるのはフットブレーキだけである.こうなると,エンジン車でエンジンブレーキを一切使わずにニュートラルにしてフットブレーキだけで坂を下り続けるのと同じことになる.しかも1.7トンを超える車体である.エンジンブレーキを併用しろと看板に書いてあっても,どうにもならない.フェード現象を起こしてブレーキが利かなくなる前に,こまめに車を止めて休憩をとるしかない.この問題は,フル充電になったら,回生エネルギーを熱に変換して捨ててしまえば,回生ブレーキが利くようになるため,いずれは改善されるだろうと思われる.

東富士五胡道路のようなアップダウンを繰り返す道では,アップではバッテリの電力を使い,ダウンではバッテリに回生電力を供給することを,バッテリの容量の範囲でできるため,もちろんワインディングを楽しめるような車ではないが,e-power固有の問題が起きることはない.バッテリの容量も,富士山スカイラインを登りきるのは無理だとしても,将来的には増える方向に行くのではないかと思われる.
さいごに
私は一応,科学者の端くれなので,セレナe-powerを買う前にこうした予想がついていたが,そんな状態になるのは全走行距離の1%にも満たないだろうし,回生ブレーキの効率とeペダルのメリットが上回ると考えて割り切るつもりだったので,まあ面白い買い物をしたと思っている.しかし,登山口までのアクセスに乗用車をヘビーに使う方で,e-power車の購入を検討している方は,以上の特性をよく理解しておくことをお勧めします.
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