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HOME > ヤマノート > 日本の山々の地質;第1部 四国地方、第1−6章 結晶片岩の山々(瓶ヶ森、伊予富士、笹ヶ峰など)
更新日:2022年12月13日 訪問者数:2775
ジャンル共通 技術・知識
日本の山々の地質;第1部 四国地方、第1−6章 結晶片岩の山々(瓶ヶ森、伊予富士、笹ヶ峰など)
ベルクハイル
図1「石鎚山地 中核ゾーン〜東部」の地質図
【地質 凡例】
・黄緑色;苦鉄質片岩
・水色;泥質片岩
・濃い黄色;砂質片岩(右上のゾーンに局在)
・オレンジ色;珪質片岩(ひも状に分布)

・ベージュ色;(石鎚山、中新世の火山岩)

【表示 凡例】
・黄色の△印;本章で取り上げた主な山々
  (結晶片岩類で形成された山々)
・青い□印部分;「別子銅山」の位置
・赤い線:石鎚山地の稜線
・青い△印;石鎚山、東赤石山
  (結晶片岩類とは異なる地質の山々)

※産総研「シームレス地質図v2」を元に筆者作成
瓶ヶ森;緩斜面(小起伏面)を持つ特異な山容
・残雪期のため、頂上部の緩斜面(小起伏面)のみ積雪があり、台地状をしている特徴的な地形が良く解る。
頂上部の小起伏面は、「隆起準平原」と推定されている。

※ 石鎚山の登山道より、筆者撮影
伊予富士;ゴジラの背のような山容
・「伊予富士」は富士山とは似ても似つかない、ゴツゴツした山容である。
特に北尾根は「ゴジラの背」のような、結晶片岩類でできた岩稜が続いている。

・またこの付近は、中央構造線に面した北側が急峻で、南側は緩斜面であることも良く解る。

※ 伊予富士の東側より、筆者撮影。
伊予富士の東面;小規模な線状凹地
・写真ではやや解りにくいが、ゴツゴツした山頂部の手前、稜線が乱れており、小規模な線状凹地が形成されているものと推定される。
(写真中央やや左手の部分)

※ 筆者撮影
寒風山の西面;結晶片岩の絶壁
・石鎚山地のうち、結晶片岩類で形成された山々では、一部にこのような大規模な絶壁がある。
・大規模な崩落地形だと思われる。

※ 寒風山の西面にて、筆者撮影
笹ヶ峰;なだらかな山容
・笹ヶ峰はその名の通り、笹原に覆われたなだらかな山容をしている。

※ 笹ヶ峰の山頂やや東側の登山道より、隣接する「チチ山」を望む、筆者撮影
緑色片岩の断面
・「緑色片岩」(苦鉄質片岩)は、山中では表面が風化して色あいは鮮やかさが無いことが多いが、内部の新鮮面は、薄い青緑色をしていることがわかる。

・また写真のように、薄いパイ生地のような「片理構造」が発達しており、割れ方も「片理構造」に沿って平べったく割れることが多い。

※ 石鎚山地にて、筆者撮影
泥質片岩の礫
・「泥質片岩」はグレー系で目立たない色合いだが、新鮮面も緑色をしていないので、「緑色片岩」とは判別ができる。
・この写真ではあまりはっきりしてないが、「片理構造」に沿って、白雲母結晶により、ピカピカした光沢がある。

※ 石鎚山地にて、筆者撮影
「紅れん石片岩」;ピンク色をしている結晶片岩
・写真の3個の礫のうち、左右のものが「紅れん石片岩」。中央は比較用の、「緑色片岩」の礫。

・右手の礫は、美しいピンク色をしている。左手の礫は、やや紫がかった色合いをしている。
・この紅色の元は、「紅れん石」というマンガン(Mn)を含む鉱物による。

※ 石鎚山地を源流域とする国領川(愛媛県新居浜市)の河原にて、筆者観察、撮影
「珪質片岩」と思われる礫
・写真の2つの礫のうち、左手の礫は、「珪質片岩」と思われる。白っぽい色合いの層は、石英だと思われる。
・右手の礫は、比較用の「泥質片岩」の礫

※ 石鎚山地のうち、「法皇山脈」の翠波峰(すいはみね)付近にて、筆者観察、撮影
(はじめに)
 1−4章、1−5章では、「石鎚山地」のうち、やや特別な地質体によって形成されている山々について、説明しました 。
 ところで、1−3章でも説明した通り、実際は「石鎚山地」のほとんどには、高圧型変成岩の一種である、結晶片岩類が分布しています。
 この1−6章では、それら結晶片岩類で形成された、主な山々を説明します。
 また、この「石鎚山地」の中にあった、「別子銅山」という、日本有数だった銅鉱床の成り立ちについても、説明します。


 なお、それ以外に、「結晶片岩類」全般の説明、変成岩の分類方法など、個人的に興味があって調べた内容を、「補足説明」として記載しました。
 ご興味のある方はご覧ください。
1) 結晶片岩類で形成されている「石鎚山地」の山々、その全般的特徴
 「石鎚山地」のうち、山体のほとんどが結晶片岩類で形成されている山々としては、瓶ヶ森(1897m)、伊予富士(1756m)、笹ヶ峰(1860m)、寒風山(1756m)、などが、登山対象としても良く登られている代表的な山です。
 また、1−3章で説明した、「石鎚山地」東部の「県境山地」もほぼ全て、結晶片岩類で形成されています。「県境山地」の代表的な山としては、平家平(へいけだいら;1693m)、大佐礼山(おおざれやま;1588m)などがあります。


 これらの山々は、標高が2000mに満たない割に、稜線部は樹林帯ではなく、笹原になっていることが多く、展望の良い山が多いのが特徴の一つです。
 四国では、「石鎚山地」のほか、「剣山地」でも標高の高い場所は、樹林帯ではなく笹原となっていることが多いのですが、その理由はあまり明確にはなっていません。
 (文献1)では、「石鎚山地」のうち、稜線部やその周辺の笹原では、周氷河作用の一種、「ソリフラクション」(注1) が起こっており(あるいは近い過去に起こった?)、そのために高木の生育が阻害され、笹原の状態で植生が安定化しているのだろう、と説明されています。

 「石鎚山地」のうち、結晶片岩類で形成された山々で、標高が1500m以上の稜線部や山腹は上記のように、笹原となっていて、以外と穏やかな山容、登山ルートの山が多いのですが、一方で、大規模な崖状地形が数か所にあります。
 具体的には、寒風山の西面、瓶ヶ森の東面、黒森山(1679m)の東面の3か所があげられます。これらの場所では山体の内部まで、結晶片岩類が積み重なっているのが良く観察できます。
 この「石鎚山地」での大規模な崩落は、その地質と関係しており、結晶片岩類が持つ「片理(へんり)構造」により、「片理」面に沿って風化が進みやすいことや、「片理」面自体が滑り面となりやすく、そのために、崩落しやすい、と推定されています(文献4−d)。
  注1) 「ソリフラクション(solifluction)」とは
 「ソリフラクション」(solifluction)とは、標高が高くて冬季に寒冷となる山地、あるいは寒冷地にある山地の斜面において、冬季の凍結・融解作用により表層岩盤が破砕されて岩塊や岩屑などになり、その岩塊などがまとまって標高の低い方へとゆっくりと動く現象。

 広義には岩塊類の形成メカニズムは問わず、傾斜面において水分を含んだ表層部が重力の作用により下方に滑りながら超長期の期間を経て移動する現象。
「周氷河作用」の一種。(文献2)、(文献3)。
2) 「結晶片岩類」で形成されている「石鎚山地」の代表的な山々
 以下、(文献1)、(文献4)、(文献5)も参照し、「石鎚山地」のうち、地質的に結晶片岩類で形成されている山々のうち、登山者も多い代表的な山について、山容や地形的な特徴を説明します。


2−1) 瓶ヶ森
 瓶ヶ森(かめがもり;1897m)は、1−3章で説明した、「石鎚山地 中核ゾーン」にある山で、石鎚山の東、約8kmに位置します。日本三百名山の一つです。
 瓶ヶ森の頂上部は、やや西側に傾いた小起伏面となっており、そこは「氷見二千石原(ひみ にせんごくばら)」注2) と呼ばれています (文献4−b)、(文献5)、ほか。
 瓶ヶ森は、頂上部が平べったく、その周辺部は急峻という、かなり独特な山容で、特に石鎚山側から望むと、その独特な山容が目立ちます。
 逆に瓶ヶ森から石鎚山側を望むと、ちょうどその間の谷状部分にしばしば雲海が広がることもあり、石鎚山の写真を撮るのに適した場所でもあります。
  
  注2) 「氷見(ひみ)」とは、麓にある地名です。
      「二千石原」は、かなり広い面なので、もし稲作ができたなら
       二千石は収穫できるだろう、
      という意味で付けられたと思われます(後半は私見です)。

 瓶ヶ森の頂上部にある、この小起伏面は、地形学上は「瓶ヶ森面」とも呼ばれ、一部に「久万層群」に属する陸地堆積性の礫岩層があることなどから、「隆起準平原」であると推定されています(文献4−b)。

 地質的には、瓶ヶ森の山体の大部分が結晶片岩類(主に「苦鉄質片岩」)で形成されていますが、その西側部分は、前述のとおり、新第三紀中新世に堆積した、「久万層群」に属する礫岩層が分布しています。


2−2) 伊予富士
 伊予富士(いよふじ;1756m)は、瓶ヶ森と同じく、「石鎚山地 中核ゾーン」にある山で、瓶ヶ森の東方 約5kmに位置する山です。この山も日本三百名山の一つです(文献5)。
 その名前とは裏腹に、富士山とは似ても似つかない山容です。山頂部はやや尖った感じで、その山頂部から北側へと続く尾根沿いには、結晶片岩類(主に苦鉄質片岩)よりなる、いくつかの岩峰状のピークがあります。
 (文献5)でも、「この山は「恐竜の背」を連想させる山容で、”冨士” のイメージには程遠い」と記されています。
 
 この山の持つ地形学的な特徴の一つとしては、山頂部の東側に、「二重山稜」状の地形があることです。「二重山稜」は、「線状凹地」とも呼びますが(文献2)、ここでは稜線方向に約100m、幅方向に約50mの、ほぼ四角形をした凹地が認められます。
 北アルプスなどに多い「線状凹地」は、以前は「雪くぼ」とも呼ばれ、積雪の影響で形成された地形と推定されていたこともありますが、最近では、小規模な正断層を伴う、地すべり的な現象で形成された地形である、とされています(文献2)、(文献6)。
 (文献1)によると、「石鎚山地」のあちこちに、小規模な断層を伴った「線状凹地」が確認されており、これらは地すべり的な地形と推定されています。
 この、伊予富士東面にある凹地も、地すべり的な現象で形成された「線状凹地」と思われます。

 この山は、冬季には稜線部やその北側(瀬戸内側)のかん木に樹氷が良く付き、四国では「樹氷の名所」としても知られています。厳冬期の稜線部には積雪が1m前後ありますが、アクセスが良いこともあり、冬季でも登山者が多い山です。
 
 
2−3) 寒風山
  寒風山(かんぷうざん;1756m)も、「石鎚山地 中核ゾーン」の山で、前述の「伊予富士」の東、約4kmに位置する山です。
  全国な知名度はほとんど無い山ですが、四国では登山者の多い山です(文献5)。

 寒風山も地質的には結晶片岩類(主に「苦鉄質片岩」)で形成された山です。
 山容の特徴は、山の西面が大規模な崖状地形となっていることで、荒々しい山容です。この西面の崖状地形(寒風山西壁)の標高差は200〜300mに及びます。寒風山西壁を見ると、この山体の内部も結晶片岩類で形成されていることが良く観察できる山とも言えます。
 この西面は、登山の面からいうと「裏寒風ルート」と呼ばれ、以前はバリエーションルート扱いで、稜線伝いの登山道よりも岩場の多いルートですが、秋の紅葉が美しい場所でもあります。
 寒風山の地形について解説した文献類は見当たりませんでしたが、この崖状地形は、過去に大規模な崩落が起きて形成されたのではないか、と思います(この段落は私見です)。

 また、前項の「伊予富士」と共に、冬期には霧氷が良く着き、四国では伊予富士と並び、「霧氷の名所」としても良く知られています(文献5)。
 厳冬期の積雪量は1m前後ですが、四国では気軽に冬山気分を味わえるので、冬季も登山者の多い山です。
 なお西にある伊予富士まで、稜線伝いに縦走路があり、脚力のある登山者は、一度に両ピークを歩くこともできます。


2−4) 笹ヶ峰
  笹ヶ峰(ささがみね;1860m)は、1−3章で定義した「石鎚山地 中核ゾーン」の東端にある山です。前項の「寒風山」の東、約2kmに位置し、寒風山との間には縦走路があります。
 また、笹ヶ峰のすぐ東側にある「ちち山」(1855m)にて、「石鎚山地」は2つに分岐し、北側の「法皇山脈」と南側の「県境山地」に分かれています(文献5)。

 この山はその名のとおり、頂上部一帯は笹原に覆われており、山容も穏やかなドーム状をしています。この山も日本三百名山の一つです(文献5)。
  この山自体は穏やかな山容のため、結晶片岩類で形成された岩場などはほとんどないのですが、笹ヶ峰から北へと派生した尾根上には、黒森山(1679m)というピークがあり、その間の尾根は結晶片岩類で形成された岩尾根となっています。また黒森山の東面は、急峻な崖状地形となっています。ここも、寒風山西面(西壁)と同じく、大規模な崩落地形ではないか、と思います(この段落は私見を含みます)。


2−5) 平家平
 平家平(へいけだいら;1693m)は、1−3章で定義した、「県境山地」にある山で、笹ヶ峰から南東方向、約5kmに位置します。

 この山の地形は独特で、頂上部付近は、笹原で覆われた小起伏面となっています。この小起伏面は、前述の「瓶ヶ森」と同様に、「隆起準平原」の一種ではないか、と思われますが、瓶ヶ森と異なり、礫岩層のような隆起を示す証拠となる地質体が無いため、明確ではありません。

  なお、「平家平」という山の名称は、源平合戦の頃、再起を期した平家側の武士たちが、この頂上部の笹原で武者修行に励んだとか、平家側の武士たちが命からがらここまで落ち延びたが、ここで最後を迎えた、とか、(やや怪しげな)伝承に基づいています(文献5)ほか。
 この山に限らず、四国地方には、源平時代に関係する地名が、多くあります。
3)  「別子銅山」;銅鉱床の形成メカニズム
 「石鎚山地」のうち、愛媛県 新居浜市の南部の山中に、「別子銅山(べっしどうざん)」という、日本有数の銅鉱山がありました。1−3章で説明した「石鎚山地」の概要のうち、笹ヶ峰と、西赤石山のあいだ辺りの一帯です。

 「別子銅山」は、江戸時代(1691年)から採掘がはじまり、1973年に閉山しましたが、東日本の足尾銅山(こちらも既に閉山)と並び、日本有数の銅鉱山でした。「別子銅山」及びその周辺の鉱山からの銅の産出量は、銅の量として約72万トンに及びます(文献7)。
 現在、その銅鉱山跡付近は、「旧別子(きゅうべっし)地区」と呼ばれ、明治〜大正時代の遺構が残っており、古き昔を偲びながらのハイキングが楽しめます。
 また、稜線部の「銅山越(どうざんごえ)」(標高;約1300m)という峠付近には、わずかですが、銅鉱床の露頭を見ることができます。
 この「別子銅山」は、この章の対象である、「石鎚山地」のうち、結晶片岩類分布域にある鉱山であることから、「山々の地質」の一環として、この章で取り上げました。

 以下、この銅鉱床がどのようにして形成されたのか、(文献7−a)をベースに、(文献8)も参照しつつ、まとめます。
 
 「別子銅山」での銅鉱床の形成メカニズムについては古くから、「現地性での形成」という仮説と、「異地性での形成」という仮説との2つが提案され、長く議論が続いたそうですが、現在では、以下のエビデンスから「異地性での形成」であることが、判明しています(文献7−a)。
  
 以下、(文献7−a)に基づき、その銅鉱床の形成メカニズムにつき、やや詳しく述べます。

 「別子銅山」における銅鉱脈(硫化銅/黄銅鉱が銅を含有する鉱物であり、硫化鉄/黄鉄鉱を伴う)は、周辺の結晶片岩類(緑色片岩、泥質片岩、珪質片岩)と整合性を持った状態で存在し、結晶片岩類の片理構造と調和的なシート状で、かつ褶曲変形状態も、調和的です。
 このことは、結晶片岩類の原岩である、玄武岩類、泥岩、チャートが形成された後に鉱脈が形成されたのではなく、玄武岩類、泥岩、チャートと同じ時期、あるいはそれより以前に既に形成されていたことを示唆します。
 また、銅鉱脈と調和的に存在している緑色片岩は、その原岩である玄武岩の化学組成が、中央海嶺玄武岩(MORB)の組成と同等であることが解っています。
 これらのことから、銅鉱脈の元である硫化銅(黄銅鉱)は、同伴する硫化鉄(黄鉄鉱)と同じく、海洋プレートが誕生する、大洋中央海嶺にて生まれたもの、と言えます。

 大洋中央海嶺とは、地下深くから熱いマントル物質が湧きだしてくる場所であり、海水はその熱により約200〜350℃にも達する熱水となります(文献9)。
 その熱水は、中央海嶺にて割れ目を通って地下へと浸透し、再び海底へと吹き出す、「熱水循環システム」を形成しています(文献9)。
 この「熱水循環システム」にて、熱水が地下にある各種元素を抽出し、噴出したのちに冷えると、それらの元素が固体となって析出します。
 それが、別子銅山の鉱床の元となる、硫化銅、硫化鉄の堆積物となったと推定されています。

 その後、海洋プレート上に堆積した、硫化銅、硫化鉄の堆積物の上に更に、深海性の珪質軟泥(チャート、珪質片岩の元)や泥(泥岩、泥質片岩の元)が堆積しつつ、海洋プレートの動きによって数千万年以上の長い旅をして、現在の別子銅山の位置に至り、海洋プレート表層を構成している玄武岩などと共に、付加体となり、更に地下深部での高圧型変成作用により、周辺の岩石は結晶片岩類へと変化した。
 これが、現在考えられている、別子銅山の銅鉱床の形成メカニズムです。

 このようなタイプの銅鉱床の形成メカニズムは、「別子型鉱床」あるいは「キースラーガー型鉱床」と呼ばれ、別子銅山以外にも世界各地の変動帯に存在します(文献9)。
【補足説明 1】 「結晶片岩類」について
※ この「補足説明」の項は、筆者の個人的興味に基づき調べた内容を、なかば自分自身の備忘録としてまとめたものです。ご興味のある方はご覧下さい。
補足説明1−1) 「結晶片岩類」とは
 まず「変成岩」についてですが、「変成岩(metamorphic rocks)」とは、やや硬い言葉で言うと「元々の岩石が、別の鉱物組み合わせに変化する、and/or  新しい構造、組織に変化(再結晶)してできた岩石」のことを言います(文献10)。
 より実際的にいうと、地下での高温、高圧条件下により、元々の岩石の、鉱物組みあわせや、岩石の構造が変化した岩石の総称です。
 変成作用を受ける前の岩石を「原岩」あるいは「源岩」と呼びますが、その種類に制限はなく、堆積岩、火山岩、深成岩、いずれも変成岩の原岩となりえます(文献10)。

 「変成岩」は多種多様で、分類方法も様々のようですが、グループ分けする場合、外観上の違いにより区分される、「結晶片岩(crystalline schist)類」と「片麻岩(gneiss)類」が、大きなグループです。
 分布域や形成メカニズムによって、「広域変成岩」と「接触変成岩」の2グループに分けることも一般的です。

 このうち「片麻岩類」がどちらかというと、高温型(「高温低圧型」や「低P/T型」とも呼ぶ)の変成帯に分布していることが多いのに対し、「結晶片岩類」はどちらかというと、高圧型(「低温高圧型」や「高P/T型」とも呼ぶ)の変成帯に広く分布しています(文献10)、(文献11)。
 日本列島に分布する「結晶片岩類」は、その多くが「付加体」が原岩と推定されており、海洋プレート沈み込み帯の地下へと、「付加体」の一部が潜り込み、その、地下の高圧化で変成作用を受けたもの、と推定されています(文献10)。 
 
 さて結晶片岩類は、いずれも、「片理(へんり)構造」という、薄いシートを重ねたような構造を持っていることが特徴であり(文献10)、(文献11)、見慣れるとぱっと見でも、他の岩石と見分けがつきます。
 また結晶片岩類は、地下深部で高い圧力を受け、更に、再結晶しているため、岩石としてはまあまあ硬い部類に入りますが、この「片理」という層状の構造を持つため、片理面に沿って比較的剥がれやすく、ロックハンマーで叩くと、片理面に沿って、薄っぺらく割れます。
 山中で見かける転石も、だいたいが、片理面に沿って割れた、平べったい石が多いです。
補足説明 1−2) 「結晶片岩類」 各種の説明
 「結晶片岩類」には各種ありますが、原岩による命名(例;泥質片岩)、色調による命名(例;緑色片岩)、含まれる鉱物種による命名(例;紅れん石片岩)、化学組成による命名(例;苦鉄質片岩)など、命名法は様々で、同じ種類でも別名を持つものが多数あり、非常に解りにくい岩石グループです。

 以下、(文献10)、(文献11)、(文献12−a)、(文献13)を元に、結晶片岩類の種類ごとの特徴を説明します。


(1) 「緑色片岩」
 結晶片岩類のうち、色合いが緑色っぽい色をした岩石は、一般的には、「緑色片岩(りょくしょくへんがん)」と呼ばれます。
 その名の通り、色調は薄い青緑色をしています。褶曲によってできた、波打つような模様が美しく、登山道沿いでも目立ちます。見た目が良いため、この「石鎚山地」での「緑色片岩」は、「伊予の青石」とも呼ばれ、石材としても利用されています。
 なお、「緑色片岩」はテキスト、文献類によって呼び方が様々で、(文献10)、(文献13)では「緑色片岩」という名称ですが、(文献11)では「塩基性変成岩」、(文献12−a)では「塩基性片岩」という名称で、説明されています。また産総研「シームレス地質図v2」では「苦鉄質片岩(くてつしつへんがん)」と表記されています。

 (文献10)によると、特有の緑色の元は、「緑れん石」や、「緑泥石」という、いずれも緑色系の色をした鉱物による、と説明されています。
原岩は、苦鉄質火山岩である玄武岩もしくはハンレイ岩(玄武岩質の凝灰岩も含む)、とも説明されています。
「石鎚山地」ではかなり広い分布域を持ち、山中でも良く見かけます。


(2) 「泥質片岩」
 結晶片岩類のうち、原岩が泥岩(未固結の泥も含む)と推定されるものを、「泥質片岩(でいしつへんがん)」と呼びます。
 見た目が黒〜グレー系なので、その色調から、「黒色片岩(こくしょくへんがん)」とも呼ばれ、(文献10)では「黒色片岩」という名称で説明されています。なお産総研「シームレス地質図v2」、(文献10)、(文献12−a)、(文献13)では、「泥質片岩」という名称が使用されています。(文献11)では、「泥質変成岩」と呼んでいます。

 「泥質片岩」は、見た目はグレー系〜ダークグレー系で地味ですが、見慣れると、「緑色片岩」とは目視で区別できます。また、白雲母と思われる結晶が析出していることが多く、片理に沿った新鮮面は、その微細な白雲母と思われる結晶により、キラキラとしたシルバーメタリックな光沢感があります。また白雲母は、しばしば、数cm〜十数cmもの大きな結晶塊となっていることもあります。
 (文献10)によると、黒っぽい色調は、元々、原岩である泥岩に含まれていた、有機物由来の「石墨(せきぼく)」という、炭素質の黒い鉱物による、と説明されています。また、石墨を多く含む黒っぽい層と、石英、長石類を含む白っぽい層が縞模様を作っている、と説明されています。
 「石鎚山地」では、「緑色片岩」と同様に、比較的良く見かける岩石で、産総研「シームレス地質図v2」で見ても、あちこちに分布していることが解ります。


(3) 「砂質片岩」
(4) 「珪質片岩」
 この2種の結晶片岩類は、産総研「シームレス地質図v2」では、「石鎚山地」に分布する結晶片岩類として表示されていますが、分布域が狭い、あるいは局在的なこともあり、実は筆者は、山中では詳しく観察したことがありません。

 (文献12−a)では「砂質片岩(さしつへんがん)」、「珪質片岩(けいしつへんがん)」の名称が記載されていますが、詳細説明はありません。(文献13)では、「砂質片岩」の名称が記載されていますが、詳細説明はありません。また(文献11)では、これらの名称の変成岩の記載はなく、代わりに「石英長石質変成岩」という変成岩の説明があります。
 (文献10)では、恐らく「珪質片岩」に相当するものとして「石英片岩」が記載されています。「石英片岩」はその名のとおり、主な鉱物が石英で、性質としては非常に硬い岩石で、色合いは白からグレー、と説明されています。


(5) 「紅れん石片岩」
「紅れん石片岩(こうれんせきへんがん)」とは、薄いピンク色をした特徴的な結晶片岩です。

 「石鎚山地」の山中ではまず見かけることが無く、産総研「シームレス地質図v2」上でも、表記がない岩石ですが、「石鎚山地」を源流域とし、瀬戸内側に注ぐ川(例えば新居浜市の国領川、四国中央市の関川)の河原で、この「紅れん石片岩」の石ころを見かけることがあります。
 特有のピンク色(桜の花の色に近い)をしており、河原でも結構目立つ、美しい岩石です。

 (文献10)によると、「紅れん石片岩」の原岩はチャートであり、主要鉱物は「石英片岩」と同様に石英ですが、この岩石に含まれる紅れん石(こうれんせき/化学組成式; 「Ca2・Mn(3+)・Al2・(Si2・O7)・(SiO4)・O・(OH)」)(文献14)という鉱物が、含んでいるマンガン(Mn)の影響でピンク色を呈するため、岩石自体も、特有のピンク色を呈する、と説明されています。
 (文献13)にも多少説明があり、上と同様に、「石英片岩」の一種で、紅れん石の影響で桃色を呈する、と説明されています。

(6) 「青色片岩」
  「青色片岩(せいしょくへんがん」)は、その名の通り、青っぽい色合いをした結晶片岩類の一種です。
 含まれる鉱物(藍閃石;らんせんせき))を元に、「藍閃石(らんせんせき)片岩」とも呼ばれます(文献10)、(文献13)。
  「緑色片岩」より、圧力はより高圧側、温度はより低温側で形成される結晶片岩とされています(文献10)。
 あまり広く分布する結晶片岩類ではないようで、筆者は「石鎚山地」で見かけたことはありませんが、九州北部の「三郡―蓮華帯」という変成岩帯で、「青色片岩」らしき岩石を見かけ、観察したことがあります。色調はきれいなブルーではなく、青黒い感じです。
(文献10)によると、原岩は「緑色片岩」と同様に玄武岩質(=「苦鉄質」)の火成岩です。

 なお、「藍閃石(らんせんせき)」という鉱物は、(文献15)によると、化学組成式は「Na2・(Mg3・Al2)・Si8・O22・(OH)2 」で表され、角閃石グループの一種とされています。この鉱物の色合いは、灰色がかった青色、あるいは青紫色、と記載されており、「青色片岩」特有の青黒っぽい色は、この「藍閃石」によるものです。


(7) その他の結晶片岩類
 上記以外にも「結晶片岩類」は様々な種類に分けられています。岩石図鑑、テキスト類に名前のある結晶片岩類を名前だけ、列挙しておきます。
 
・「白雲母片岩(しろうんもへんがん)」;(文献10)
・「礫質片岩(れきしつへんがん)」;(文献13)
【補足説明 2】 結晶片岩類の形成と、上昇メカニズム
 ※ この「補足説明」の項も、筆者の個人的興味に基づき調べた内容を、なかば自分自身の備忘録としてまとめたものです。ご興味のある方はご覧下さい。

 さて、これら「石鎚山地」に広く分布する、「三波川帯」の結晶片岩類は、どのようにして形成されたのでしょうか?
また地下深くの高圧条件下で形成されたと考えられる結晶片岩類が、どのようなメカニズムによって、地表へと上昇したのでしょうか?

 この問題は地質学/プレートテクトニクスにおいても、重要な課題のようで、色々な説が出されているようですが、取り敢えず自分なりに調べた内容を以下、記載します。
補足説明 2−1)「結晶片岩類」の形成プロセスについて
 まず、「結晶片岩類」の形成プロセスについて述べます。
(文献10)などによると、日本列島における結晶片岩類の原岩は、その大部分が、海洋プレート沈み込み帯で形成された、「付加体」だと考えられています。

 「三波川帯」の結晶片岩類の原岩となっている、「付加体」の構成物としては、海洋プレート起源の「玄武岩」、その上に堆積した「チャート」、および陸源性の砂(砂岩)や泥(泥岩)があり、それらが原岩と考えられています。

 三波川帯の変成岩のうち、もっとも多くみられる、「緑色片岩」は、このうち、海洋地殻上部やその上の海山を形成している「玄武岩質」の原岩が変成したものと考えられています。また「泥質片岩」は、「泥岩」が起源、「珪質片岩」は、「チャート」あるいは「珪質軟泥」が起源、「砂質片岩」は、「砂岩」が起源と考えられています。
 
 ところで日本列島には、結晶片岩類で代表される高圧型変成岩が分布する「地帯」が、「三波川帯」の他に3つあります。具体的には、以下の3つの「地帯」です。

・「三郡―蓮華帯(さんぐんれんげたい)」(九州北部〜中国地方〜北アルプス/変成年代は約3億年前 = 石炭紀〜ペルム紀) ;(文献16)、(文献17)
・「周防帯(すおうたい)」(九州北部から中国地方/変成年代は約2億年前 = トリアス紀〜ジュラ紀);(文献16)
・「神居古潭帯(かむいこたんたい)帯」(北海道/変成年代は、約1.5億年前〜約0.5億年前 = 白亜紀〜古第三紀);(文献18)


 産総研「シームレス地質図v2」や各文献で確認すると、いずれの変成帯も、苦鉄質片岩(付加体中の、海洋源性の玄武岩類が原岩と推定される)、と泥質片岩(=付加体中の、陸源性の泥岩が原岩と推定される)が主体の変成岩帯です。

 これらの結晶片岩類が分布する変成岩帯は、場所や形成時代は違えど、いずれも、海洋プレート沈み込み帯で形成された「付加体」が原岩であり、それが沈み込むスラブと共に地下深部に引きずりこまれて高圧型変成作用を受けて変成したもの、と推定されています。
補足説明2−2) 「結晶片岩類」の上昇メカニズム
 さて、地下深部(おおよそ15km〜50km)で形成された、これら高圧型変成岩が、地表へと上昇しているメカニズムですが、調べた範囲では、未だ明確ではないようです。

 1991年の、やや古い文献ではありますが、(文献19)では、それまでに提案されてきた仮説を5種類に分け、それぞれの仮説をレビューしています。但し、(文献19)ではどのメカニズムにも難点があり、1つのメカニズムだけでは説明できそうにない、としています。

   仮説a) 押し出しによる上昇
     高圧型変成岩体が圧縮場に置かれた際、横方向からの圧縮応力により
     上昇する、という仮説

   仮説b) 浮力による上昇
     高圧型変成岩体と、その周辺の地質体との密度差により浮力が生じて
     変成岩体が上昇する、という仮説

   仮説c) 横ずれ断層による上昇
     例えば日本の「中央構造線」のような横ずれ断層が鉛直方向の成分も持ち、
     その鉛直方向の応力ベクトルにより上昇する、という仮説

   仮説d) 付加体による逆流れによる上昇
     プレート沈み込み帯において、沈み込む「スラブ」の上側に位置する「付加体」
     が、クサビ型の流動性を持ち、そのうちの上昇ベクトル成分により上昇する、
     という仮説

   仮説e) 付加体の成長(伸長)による上昇
    海洋プレート沈み込み帯において、古い付加体に新しい付加体が加わる際、
    新しい付加体は付加体の下部に付加し(「底付け」;“under plating”)、
    その為に、古い付加体起源である高圧型変成岩体が上昇する、という仮説


 その他、最近の文献を調べてみると、(文献20)では、三波川帯の高圧型変成帯も含む高圧型変成岩体は、海洋プレート沈み込み帯に沿って「ウエッジ絞り出し機構」 ※ により上昇する、という説が述べられています。
 
 ※ (文献20)で述べられている「ウエッジ絞り出し機構」については、
   (文献21)に詳しいようですが、当該文献は、有料サイトにしかないため、
   内容未確認。

  また、(文献22)は、海洋プレート沈み込み帯の地下構造や、それに関するプレート境界地震に関する文献であり、高圧型変成岩を主題にはしていませんが、プレート境界での高圧型変成岩の動きとして、沈み込む際は、スラブに沿って沈み込むが、上昇する際は、スラブ(プレート境界)から分離して、岩脈状に固体貫入型で上昇する、というモデル(仮説)が述べられています。


 いずれにしても、「石鎚山地」に分布する「三波川帯」の結晶片岩類は、複雑な形成、移動過程を経て、現在、「石鎚山地」の山々を形成している、と言えます。
【補足説明 3】 変成岩の変成度合い、変成条件による区分方法について
 ※ この「補足説明」の項も、筆者の個人的興味に基づき調べた内容を、なかば自分自身の
   備忘録としてまとめたものです。ご興味のある方はご覧下さい。


 この1−6章では、結晶片岩類という変成岩で形成された山々について解説しましたが、関連する文献類や、産総研「シームレス地質図v2」では、変成岩の変成度合いや変成条件に関連した区分が記載されています。
 しかしこれらの用語は専門的なので、かなり解りにくい点です。

 そこで、色々な専門書を元に、変成岩の変成度合い、変成条件による区分方法がどのようになっているのか、調べ、まとめてみました。

 調べた結果、以下2種類の区分方法があるようです。
補足説明 3−1) 「変成分帯」による区分方法
「変成分帯」(metamorphic zonal mapping)による区分方法は、(文献11)、(文献23)によると、19世紀後半に、G.Barrow が、イギリスのスコットランド地域の変成岩分類域の研究に基づいて考案した、変成岩の区分方法です。
  具体的には、(文献11)、(文献12―b)、(文献23)によると、「変成分帯」による区分方法とは、変成岩が分布しているある地域において、特定の鉱物(指標鉱物)の出現や消滅によって、変成岩分布域を地理的に(=地質図上で)、区分する方法です。
 
 「変成分帯」による区分方法では、各指標鉱物が存在するゾーンを、「鉱物帯(mineral zone)」と呼びます。
 また、各「鉱物帯」間の境界線は、「アイソグラッド(isograd)」と呼ばれます。

 この区分方法では、(文献11)、(文献12―b)、(文献23)いずれも、どのような「鉱物帯」が公式に使われるているのか、明確には書いてありません。

(文献11)では、変成度が低いものから高いものへの順として、以下6つの「鉱物帯」が、例として書かれています。なおこれは、泥質変成岩における区分とのことです。

・(文献11)における、「変成分帯」と各「鉱物帯」
 低変成度 <― 「緑泥石帯」<「黒雲母帯」<「ザクロ石帯」<
    <「十字石帯」<「藍閃石帯」<「珪線石帯」 ―>高変成度

    (at スコットランドの変成岩ゾーン/ by Barrow)

 一方、(文献12―b)では、例として以下4つの「鉱物帯」が書かれています。
これも、泥質変成岩における区分、とされています。

 ・(文献12―b)における、「変成分帯」と各「鉱物帯」
 
  <― 低変成度 「緑泥石帯」<「ざくろ石帯」<  
     <「曹長石(アルバイト)−黒雲母帯」
        <「灰曹長石(オリゴクレース)−黒雲母帯」 ―>高変成度

     (at 四国「三波川帯」/by 東野)

 この「変成分帯」による区分法は、以下の「変成相図」による区分法とどのように対応しているかは明確ではなく、また、定量的ではなくて定性的な変成度合いの区分方法、という感じです。
 なお、産総研「シームレス地質図v2」では、この「変成分帯」による区分法に基づき、地質図上に、例えば「緑泥石帯」、「ざくろ石帯」などと表示されています。
補足説明 3−2) 「変成相」による区分方法
(文献11)、(文献12―b)、(文献23)とも、この「変成相」による区分方法は、かなり詳しく説明されています。
 「変成相(metamorphic faceis)」による区分方法は、1920年代に、フィンランドの地質学者、P.Eskola によって考案された、変成岩の区分方法です。

 Eskolaは、主に苦鉄質変成岩(=塩基性変成岩)を対象にし、特定の鉱物組み合わせ基づいて定義される、その変成作用が起こった温度/圧力範囲を、「変成相」と呼び、その上で、いくつかの「変成相」を決めたものです。
 前記の G.Barrow が考案した「変成分帯」による区分方法とは独立して確立された区分方法です。

 具体的には、温度(T/℃)と、圧力(P/bar , Pa)をそれぞれ横軸、縦軸に取った2次元グラフ(以下、「PT図」と略す)上に、閉じた多角形で示される(但し、高P側、高T側では閉じていない)、いくつかの「変成相」領域を描いたもので表されます。

 この「PT図」上に示される各「変成相」の名称は、岩石名(例;「緑色片岩相」、「角閃岩相」)だったり、鉱物名(例;「パンペリーアクチノ閃石相」、「沸石相」)が使用されます。
 この「PT図」を使った変成岩の変成度合い、変成条件の区分方法の優れたところは、変成作用の温度(T)、圧力(P)が定量的に示される点です。
 例えば、温度T=400℃、圧力P=0.5GPaの変成条件は、「緑色片岩相」に相当する、と示すことができます。また温度(T)と圧力(P)とのバランスにより、高圧型変成作用、高温型変成作用、中圧型変成作用といった、変成系列を分けることができます。


 なお、この「変成相」による区分方法で注意すべきと感じるのは以下の点。

a) 日本語で「相(そう)」と呼んでいるが、これは物理学、物理化学で言う、”phase” の意味の「相」ではなく、(例えば、「液相」は ”liquid phase” )、 ”facies” という、恐らく地質学独自の単語の訳語であること。
b) 「PT図」上に表した各「変成相」の領域範囲、名称、区分は、きっちり定まっているものではなく、いくつものバージョンがあること。
 例えば、(文献11)の図10.1は、Liouが作った図(1998)と、坂井が作った図(2000)の2つが記載されている。(文献12―b)の図B-2-12は、坂井が作った図を改変した図が記載されている。また図は例示されていないが、都城が作成した図は日本では従来、良く使われた、との説明もある。
c) 例えば「緑色片岩相」という名称の領域で変成作用を受けた岩石が全て、「緑色片岩」になるわけではなく、原岩の組成により異なること。「緑色片岩相」とはあくまで、その領域で変成作用を受けた岩石の代表として「緑色片岩」という岩石名を表示していること。
d) 各「変成相」領域を区画する線は、実際には幅をもっており、その幅の部分は一種の「遷移帯」であること。
e) 「PT図」の縦軸は圧力(P)であり、地中での深さは、通常、書かれていないこと(これは、地中での岩石組成=密度が、地域によりまちまちであり、圧力(P)と深さとに一義的な関係式が無いことによる)。


 なお、1)で説明した「変成分帯」による区分方法と、2)で説明した「変成相」による区分方法の対応関係は明確ではありませんが、(文献23)の表20−2によると、以下のような対応関係が示されています。

 ・「緑泥石帯」、「黒雲母帯」       ==  「緑色片岩相」
 ・「ザクロ石帯」             ==  「緑れん石 角閃岩相」
 ・「十字石帯」、「藍閃石帯」、「珪線石帯」 == 「角閃岩相」
(参考文献)
文献1) 森川 編・著
  「石鎚山系 自然観察入門」
     愛媛県文化振興財団 刊 (1995)、 のうち、
   「石鎚山系の生い立ち」の項


文献2) 小泉、清水 共著
   「山の自然学入門」
      古今書店 刊 (1993)のうち、
    「山の自然ミニ知識」の各項


文献3) インターネットサイト
   ウイキペディアの、「ソリフラクション」の項
                           2022年12月 閲覧
 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%BD%E3%83%AA%E3%83%95%E3%83%A9%E3%82%AF%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%83%B3


文献4) 太田、成瀬、田中、岡田 共著
   「日本の地形 第6巻 近畿・中国・四国」
     東京大学出版会 刊 (2004)、
    
  文献4−a) 文献4)のうち
   1−3章 「近畿・中国・四国の地形形成環境」の項

  文献4−b) 文献4)のうち
   1−5章 「近畿・中国・四国の地形研究史」の項

  文献4−c) 文献4)のうち、
   7−1章 「四国山地」の項
    
  文献4−d) 文献4)のうち、
    「コラム;四国山地の大規模崩壊地形」の項


文献5) 石川、伊藤、丹下、豊田、新山、西田、松井 共著
  「新・分県登山ガイド 37巻 愛媛県の山」
     山と渓谷社 刊 (2004) 、の各項 


文献6) インターネットサイト
   ウイキペディアの、「線状凹地」の項
                          2022年12月 閲覧
 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%B7%9A%E7%8A%B6%E5%87%B9%E5%9C%B0


文献7) 青矢、町田、水野、水上、宮地、
      松浦、遠藤、利光、青木 共著
    「地域地質研究報告 
       5万分の1 地質図幅 高知(13) 第40号
          NI-53-27-12,28-9 
       『新居浜地域の地質』」
      産総研 地質調査総合センター 刊 (2013)

https://www.gsj.jp/data/50KGM/PDF/GSJ_MAP_G050_13040_2013_D.pdf

  文献7−a) 文献7)のうち、
     10−2−1項 「別子銅山」の項、及び
     10.2章 「銅鉱床」の項 全般   

  文献7−b) 文献7)のうち、
     第3章 「三波川変成コンプレックス」の、序章の項
     3−1節 「(三波川変成コンプレックスの)研究史」の項
     
  
文献8) 日本地質学会 刊
   「日本地方地質誌 第7巻 四国地方」
      朝倉書店 刊 (2016) のうち、
    12−2−1節 「別子型含銅硫化鉄鉱 鉱床」の項


文献9) 上田
   「プレート・テクトニクス」
       岩波書店 刊 (1989) のうち、
     第6―1章 「海嶺ではなにが起こっているか」の項


文献10) 西本 
   「観察を楽しむ 特徴がわかる 岩石図鑑」
     ナツメ社 刊 (2020)


文献11) 榎並 
   「現代地球科学入門シリーズ 第16巻 岩石学」
     共立出版 刊 (2013)のうち、
    第8章 「変成作用と変成岩」の項


文献12) 日本地質学会 フィールドジオロジー刊行委員会 編
       中島、高木、石井、竹下 共著 
     「フィールドジオロジー 第7巻 変成・変成作用」
       共立出版 刊 (2004)
  
  文献12−a) 文献8)のうち、
     B−1章 「変成岩の岩相と産状」の項

文献12−b) 文献8)のうち、
     B−2章 「変成鉱物組合わせと変成条件の推定」の項


文献13) インターネットサイト
   ウイキペディア 「結晶片岩」の項
                      2022年12月 閲覧
 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%B5%90%E6%99%B6%E7%89%87%E5%B2%A9


文献14) インターネットサイト
  ウイキペディア 「紅れん石」の項
                      2022年12月 閲覧

 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%B4%85%E7%B0%BE%E7%9F%B3


文献15) インターネットサイト
   ウイキペディア 「藍閃石」の項
                       2022年12月 閲覧

 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%97%8D%E9%96%83%E7%9F%B3


文献16) 日本地質学会 編
   「日本地方地質誌 第6巻 中国地方」
      朝倉書店 刊 (2009)のうち、
    1−2章「(中国地方の) 先白亜系の構成と地体構造」の項
    4−4章「(中国地方の)蓮華帯」の項、及び
    3−5章「(中国地方の)周防帯」の項


文献17) 日本地質学会 編
   「日本地方地質誌 第8巻 九州・沖縄地方」
       朝倉書店 刊 (2010) のうち、
    7−2章「(九州地方の)低温高圧変成岩類」の項


文献18) 日本地質学会 編
   「日本地方地質誌 第1巻 北海道地方」
      朝倉書店 刊 (2009)のうち
    2−2−3−(d)項 「神居古潭帯」の項


文献19)  J.P.Platt, S.R.Wallis、
  「高圧変成岩はどうやって上昇したのか」
    「科学」(岩波書店 刊) 第41巻 p535-543 (1991)


文献20)   岡本、青木、丸山
  「四国三波川変成帯のテクトニクス」
     地質学雑誌、第115巻(補遺) p37-40 (2009)
  (日本地質学会の、巡検用案内書を兼ねる論文)
 https://www.jstage.jst.go.jp/article/geosoc/115/Supplement/115_Supplement_S37/_pdf


文献21)   Maruyama,S
  “ Pacific-type orogeny revisited : Miyashiro-type orogeny proposed”
   The Island arc, vol.6 , p91-120,(1997)


文献22) 島海、笠原
   「プレート境界の構造と境界変成岩科学」
     地学雑誌  第114巻、p367-384 (2005)

 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jgeography1889/114/3/114_3_367/_pdf

 
文献23) 都城、久城 共著
  「岩石学 2; 岩石の性質と分類」
    共立出版 刊  (1975) のうち、
   第20章 「変成作用と変成岩の分類」の項
【書記事項】
初版リリース;2020年4月19日

△改訂1;章立ての変更、文章見直し、一部加筆修正。
     (参考文献)の項を新設、記載。
     1−1章へのリンクを追加。
     書記事項の項を新設、記載。(2022年2月7日)

△改訂2;第1部の全面的な見直しによる大幅改定。
    ・章の番号を、1−5章から 1−6章に変更。
    ・本文は、第1節、第2節に分節したうえで、全面的に加筆、修正。
    ・第3節「別子銅山」の項を新規作成し、記載。
    ・ 変成岩や結晶片岩類全般に関し、
     補足説明の項(1,2,3)を設け、記載。
    ・地質図、各山々の写真、代表的な結晶片岩類の写真を添付。
    ・参考文献の項は、本文見直しと補足説明の項に応じ、大幅に追加。
     (2022年12月13日)

△最新改訂年月日;2022年12月13日
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