(はじめに)
この2−2章では、北アルプス個々の山の説明の前に、北アルプス全体に関する、地理的な特徴、地形的な特徴について説明します。
1)北アルプスの地理的、地形的な特徴
・北アルプスは日本を代表する山脈であるとととも、いくつかの特徴を持っています。
それらの特徴を以下に列挙します。
(1)高山の集中する中部日本にあること
北アルプスも含め、「日本アルプス」とまとめて呼ばれる、中央アルプス、南アルプスは、いずれも、本州中央部にある地質構造線である糸魚川静岡構造線(略称;糸静線)の西側に並んでいます。
「糸静線」の東側は通称「フォッサマグナ」(「大地溝帯」を意味するラテン語)と呼ばれる一帯となっていますが、地溝ができた後に、火山が多くできたため、地溝というよりは火山列となっています。
いずれにしろ、北アルプスを含む日本アルプス、及びいわゆるフォッサマグナ地帯あたりの複雑な地形、山地は、中部日本の複雑なプレートテクトニクスにより生じた、と考えられますが、その地史はまだ研究が続けられている状況です。
(2)標高の高い山地であること
北アルプスの地理的な特徴は、なんといっても、南アルプスと並んで、日本で一番、3000m級の高山が多い山地であることです。3000m以上の峰は、南部の槍穂連峰に集中しており、他には立山山脈の立山が唯一の3000m峰ですが、2700〜2900mレベルの山まで範囲を広げると、北は後立山山脈の白馬岳、立山山脈の剣岳から、南は霞沢岳まで、山域全体に多数あります。
(3)山地全体の等高性があること
北アルプスを全体的に見ると、等高性(主な峰々の高さが似通っている)があることも特徴です。北アルプスの東側、美ヶ原や妙高山あたりから望むと、屏風のように同じような高さの山々が並んでおり、槍ヶ岳や常念岳など、一部の特徴的な山容の山を除くと、山の名前の同定が難しいほどです。
また、北アルプスの中央部である、黒部源流部を囲む山々(北の又岳、双六岳、三俣蓮華岳付近)は、特になだらかな山容を示し、いわゆる「隆起準平原」の形状を示しています。
この「等高性」は、北アルプスが今のように高くそびえる前には、いわゆる「準平原」的な、低くてなだらかな場所であった時代があり、その後、山地全体がほぼ同じような隆起速度で隆起したことを示唆しています。
(4)急峻な山と谷でできていること
いうまでもなく、北アルプスの稜線の側面は急峻な勾配を持っており、ほとんどの登山道は主稜線に上がるまで、急登を余儀なくされます。また山列の間を刻む谷は、黒部渓谷が最も代表的ですが、深く刻まれた谷を形成しています。山地形成論でいうところの「壮年期山地」の代表例とも言えます。
これは、現在でも稜線部は隆起が続いている一方で、谷もどんどんと深く浸食を進めている状態にあると考えられます。文献2)においても、北アルプスは、南アルプス、中央アルプスとともに、日本の山地のうち、「最も険しい山地」に分類されています。
(5)氷河地形を持つこと、現存氷河があること
ごく最近(2010年代)になって、剣岳付近(三の窓雪渓など)、立山付近(内蔵助カール雪渓)、後立山連峰(カクネ里雪渓など)などの越年性雪渓の下に、流動性を持つ小規模な「氷河」が北アルプスに現存していることが判明しました。(文献4)
それよりかなり以前(明治時代〜大正時代)からすでに、北アルプスの山々には、氷河時代に刻まれた氷河の跡が多く残されていることが解っています。
例えば、山稜付近にできた氷河の跡であるカール地形としては、涸沢カール、薬師岳東面のカール群、立山の山崎カールなど。また谷氷河の跡であるU字谷としては、横尾谷、槍沢などです。
現在は間氷期に当たりますが、その一つ前の氷河期(約11万年前〜約1.4万年前;酸素同位体ステージ(MIS)でいうと、MIS4〜MIS2)に、これらの氷河ができたと考えられています。
この時代の氷河痕跡は、日本では北アルプス以外には、中央アルプス、南アルプス、および北海道の日高山脈に残っています。
いずれにしろ、氷河痕跡の規模や数では北アルプスが日本では代表的な山地で、古くから地理学的な研究が盛んにおこなわれてきました。
(6)山地の中に活火山列があること
同じ日本アルプスでも、中央アルプス、南アルプスには活火山はありませんが、北アルプスだけは、山地の中軸に、南北に並ぶ活火山列が存在します。
具体的には、後立山山脈では、白馬大池、鷲羽岳、祖父岳。立山山脈では、立山の近くに、火山噴火跡の立山カルデラや、地獄谷の噴気孔があり、また枝尾根である硫黄尾根も火山活動を行っています。槍穂連峰では大正時代に爆発して大正池を作ったことで有名な、焼岳があります。
さらにこの火山列は南へと続き、大型成層火山である乗鞍岳、御岳山という3000m級の火山を形成しています。
それらの特徴を以下に列挙します。
(1)高山の集中する中部日本にあること
北アルプスも含め、「日本アルプス」とまとめて呼ばれる、中央アルプス、南アルプスは、いずれも、本州中央部にある地質構造線である糸魚川静岡構造線(略称;糸静線)の西側に並んでいます。
「糸静線」の東側は通称「フォッサマグナ」(「大地溝帯」を意味するラテン語)と呼ばれる一帯となっていますが、地溝ができた後に、火山が多くできたため、地溝というよりは火山列となっています。
いずれにしろ、北アルプスを含む日本アルプス、及びいわゆるフォッサマグナ地帯あたりの複雑な地形、山地は、中部日本の複雑なプレートテクトニクスにより生じた、と考えられますが、その地史はまだ研究が続けられている状況です。
(2)標高の高い山地であること
北アルプスの地理的な特徴は、なんといっても、南アルプスと並んで、日本で一番、3000m級の高山が多い山地であることです。3000m以上の峰は、南部の槍穂連峰に集中しており、他には立山山脈の立山が唯一の3000m峰ですが、2700〜2900mレベルの山まで範囲を広げると、北は後立山山脈の白馬岳、立山山脈の剣岳から、南は霞沢岳まで、山域全体に多数あります。
(3)山地全体の等高性があること
北アルプスを全体的に見ると、等高性(主な峰々の高さが似通っている)があることも特徴です。北アルプスの東側、美ヶ原や妙高山あたりから望むと、屏風のように同じような高さの山々が並んでおり、槍ヶ岳や常念岳など、一部の特徴的な山容の山を除くと、山の名前の同定が難しいほどです。
また、北アルプスの中央部である、黒部源流部を囲む山々(北の又岳、双六岳、三俣蓮華岳付近)は、特になだらかな山容を示し、いわゆる「隆起準平原」の形状を示しています。
この「等高性」は、北アルプスが今のように高くそびえる前には、いわゆる「準平原」的な、低くてなだらかな場所であった時代があり、その後、山地全体がほぼ同じような隆起速度で隆起したことを示唆しています。
(4)急峻な山と谷でできていること
いうまでもなく、北アルプスの稜線の側面は急峻な勾配を持っており、ほとんどの登山道は主稜線に上がるまで、急登を余儀なくされます。また山列の間を刻む谷は、黒部渓谷が最も代表的ですが、深く刻まれた谷を形成しています。山地形成論でいうところの「壮年期山地」の代表例とも言えます。
これは、現在でも稜線部は隆起が続いている一方で、谷もどんどんと深く浸食を進めている状態にあると考えられます。文献2)においても、北アルプスは、南アルプス、中央アルプスとともに、日本の山地のうち、「最も険しい山地」に分類されています。
(5)氷河地形を持つこと、現存氷河があること
ごく最近(2010年代)になって、剣岳付近(三の窓雪渓など)、立山付近(内蔵助カール雪渓)、後立山連峰(カクネ里雪渓など)などの越年性雪渓の下に、流動性を持つ小規模な「氷河」が北アルプスに現存していることが判明しました。(文献4)
それよりかなり以前(明治時代〜大正時代)からすでに、北アルプスの山々には、氷河時代に刻まれた氷河の跡が多く残されていることが解っています。
例えば、山稜付近にできた氷河の跡であるカール地形としては、涸沢カール、薬師岳東面のカール群、立山の山崎カールなど。また谷氷河の跡であるU字谷としては、横尾谷、槍沢などです。
現在は間氷期に当たりますが、その一つ前の氷河期(約11万年前〜約1.4万年前;酸素同位体ステージ(MIS)でいうと、MIS4〜MIS2)に、これらの氷河ができたと考えられています。
この時代の氷河痕跡は、日本では北アルプス以外には、中央アルプス、南アルプス、および北海道の日高山脈に残っています。
いずれにしろ、氷河痕跡の規模や数では北アルプスが日本では代表的な山地で、古くから地理学的な研究が盛んにおこなわれてきました。
(6)山地の中に活火山列があること
同じ日本アルプスでも、中央アルプス、南アルプスには活火山はありませんが、北アルプスだけは、山地の中軸に、南北に並ぶ活火山列が存在します。
具体的には、後立山山脈では、白馬大池、鷲羽岳、祖父岳。立山山脈では、立山の近くに、火山噴火跡の立山カルデラや、地獄谷の噴気孔があり、また枝尾根である硫黄尾根も火山活動を行っています。槍穂連峰では大正時代に爆発して大正池を作ったことで有名な、焼岳があります。
さらにこの火山列は南へと続き、大型成層火山である乗鞍岳、御岳山という3000m級の火山を形成しています。
ウイキペディア 「飛騨山脈」
ウイキペディア 「氷河」
(参考文献)
文献1)町田、松田、海津、小泉 編
「日本の地形 第5巻 中部」東京大学出版会 刊 (2006)
のうち、
1−a) 第1ー1章 「中部地方の地形と地質の概説」の項
1−b) 第4部「中部山岳」の「概説」の項
1−c) 4−3章「飛騨山脈の地形」の項
1−d) 4−6章「中部山岳(日本アルプス)の氷河地形」の項
1−e) 4−4章「飛騨山脈の中期更新世以降の火山」の項
など、、
文献2)米倉、貝塚、野上、鎮西 編
「日本の地形 第1巻 総説」東京大学出版会 刊(2001)
のうち、
2−a) 第1部「日本列島の大地形と地形区分」の各項
2−b) 第5部「日本列島の山地地形」の各項
2−c) 第10部「日本の地形発達史」の各項
など、、
文献3) ウイキペディア 「飛騨山脈」の項、
2020年4月閲覧
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%A3%9B%E9%A8%A8%E5%B1%B1%E8%84%88
文献4)ウイキペディア 「氷河」の項、
2020年4月閲覧
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B0%B7%E6%B2%B3
「日本の地形 第5巻 中部」東京大学出版会 刊 (2006)
のうち、
1−a) 第1ー1章 「中部地方の地形と地質の概説」の項
1−b) 第4部「中部山岳」の「概説」の項
1−c) 4−3章「飛騨山脈の地形」の項
1−d) 4−6章「中部山岳(日本アルプス)の氷河地形」の項
1−e) 4−4章「飛騨山脈の中期更新世以降の火山」の項
など、、
文献2)米倉、貝塚、野上、鎮西 編
「日本の地形 第1巻 総説」東京大学出版会 刊(2001)
のうち、
2−a) 第1部「日本列島の大地形と地形区分」の各項
2−b) 第5部「日本列島の山地地形」の各項
2−c) 第10部「日本の地形発達史」の各項
など、、
文献3) ウイキペディア 「飛騨山脈」の項、
2020年4月閲覧
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%A3%9B%E9%A8%A8%E5%B1%B1%E8%84%88
文献4)ウイキペディア 「氷河」の項、
2020年4月閲覧
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B0%B7%E6%B2%B3
このリンク先の、2−1章の文末には、第2部「北アルプス」の各章へのリンク、及び、序章(本連載の各部へのリンクあり)を付けています。
第2部の他の章や、他の部をご覧になりたい方は、どうぞご利用ください。
第2部の他の章や、他の部をご覧になりたい方は、どうぞご利用ください。
【書記事項】
初版リリース;2020年5月2日
△改訂1;文章見直しと一部修正。章立ての変更。参考文献の項を独立化、及び修正、追記。
2−1章へのリンク追加。書記事項追記。(2022年1月6日)
△最新改訂年月日;2022年1月6日
△改訂1;文章見直しと一部修正。章立ての変更。参考文献の項を独立化、及び修正、追記。
2−1章へのリンク追加。書記事項追記。(2022年1月6日)
△最新改訂年月日;2022年1月6日
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