(はじめに)
この第2−4章より、北アルプスの各山々について、南側から順に、その地質について説明していきます。
この第2−4章では、2−1章で定義した「常念山脈」のうち、南端の霞沢岳(かすみさわだけ)から蝶ヶ岳(ちょうがたけ)までの範囲について説明します。それより北側の山々は次の第2−5章で説明します。
この第2−4章では、2−1章で定義した「常念山脈」のうち、南端の霞沢岳(かすみさわだけ)から蝶ヶ岳(ちょうがたけ)までの範囲について説明します。それより北側の山々は次の第2−5章で説明します。
1)常念山脈南部の概要
槍穂高連峰の入り口、かつ人気の山岳観光地でもある、上高地に降り立つと、ほとんどの人は、眼前にそびえる穂高連峰の威容と、目の前に流れる梓川の清流に目を奪われるでしょう。
一方、上高地の南側の山列は、あまりに近すぎて山頂も見えず、ほとんど注目する人はいません。また登山対象としても、穂高連峰に比べると地味なので、登山者も少ない山域です。
(広義の)常念山脈は、この上高地の裏手にひっそりそびえている霞沢岳(標高;2646m)から始まり、徳本峠(とくごうとうげ)を越えて、東へと緩やかな稜線が続き、大滝山(標高;2615m)に至ります。さらに、そのあたりから山脈は北へと方向を変え、蝶が岳(標高;2664m)で、ようやく再び森林限界を抜けて展望が開けるとともに、登山者の姿も多くなります。
蝶が岳から先、常念岳〜大天井岳〜燕岳付近は登山者も多い稜線になります。
一方、上高地の南側の山列は、あまりに近すぎて山頂も見えず、ほとんど注目する人はいません。また登山対象としても、穂高連峰に比べると地味なので、登山者も少ない山域です。
(広義の)常念山脈は、この上高地の裏手にひっそりそびえている霞沢岳(標高;2646m)から始まり、徳本峠(とくごうとうげ)を越えて、東へと緩やかな稜線が続き、大滝山(標高;2615m)に至ります。さらに、そのあたりから山脈は北へと方向を変え、蝶が岳(標高;2664m)で、ようやく再び森林限界を抜けて展望が開けるとともに、登山者の姿も多くなります。
蝶が岳から先、常念岳〜大天井岳〜燕岳付近は登山者も多い稜線になります。
2)常念山脈南部の地質
この霞沢岳から大滝山、蝶が岳までの稜線とその山腹を構成している地質は、「丹波・美濃帯」(たんば・みのたい)と呼ばれる地帯に属する堆積岩でできており、その地質の正体は、ジュラ紀(約2.0憶年〜約1.5憶年前)に形成された「付加体」です。
「丹波・美濃帯」とは、西南日本内帯における代表的な付加体性の地質帯で、西はその名の通り、兵庫県中部の丹波地方から始まり、京都府の中北部、琵琶湖の北岸、岐阜県の中部(奥美濃)、そしてこの、北アルプスの南部へと続きます。(文献1)、(文献2)
なお書籍や文献によっては「丹波・美濃帯」のことを、近畿地方の領域を「丹波帯」、中部地方の領域を「美濃帯」と表記している場合もありますが、基本的には両者は同じもので、元々分布域によって地帯を命名していた名残りです。
構成している岩石は典型的な付加体型の組み合わせであり、陸地起源の砂岩、泥岩と、海洋起源のチャートなどで構成されています。おそらくジュラ紀の時代、この付近には、今の南海トラフのような海洋プレート沈み込み帯があり、長い間かけて、長くて幅広い付加体が形成されたものと思われます。
霞沢岳から大滝山、蝶ヶ岳までの稜線は、産総研「シームレス地質図v2」で確認すると、主に陸源性の砂岩でできています。砂岩はそれほど浸食に強い岩石ではないので、おそらくそのせいで、この稜線はなだらかなのでしょう。岩場などほとんどありません。大滝山、蝶が岳も、なだらかな馬の背状で、どこが山頂かわからないほどのなだらかさです。
なお、この山稜の南側の、島々谷の流域は、産総研「シームレス地質図v2」で確認すると、「混成岩」(メランジュ相の付加体)が主体で、陸地起源の砂岩、泥岩と、海洋起源の玄武岩、チャートが入り混じっているようです。
また、霞沢岳は、対岸の西穂高の稜線から見ると、わりと目立った山頂をしています。産総研「シームレス地質図v2」で確認すると、霞沢岳山頂近辺に地層の境目があり(北東―南西走向)、山頂より南側は丹波・美濃帯の砂岩ですが、北側は、途中の六百山(標高;2443m)も含め、槍穂高連峰を構成する深成岩(花崗岩)、火山岩(溶結凝灰岩)でできています。そのせいで、山容もやや険しくなっているものと思われます。
なぜ突然、堆積岩の領域に、火成岩(火山岩や深成岩)が入り込んでいるのか?は、2−6章 槍穂連峰の項にて、改めて説明します。
「丹波・美濃帯」とは、西南日本内帯における代表的な付加体性の地質帯で、西はその名の通り、兵庫県中部の丹波地方から始まり、京都府の中北部、琵琶湖の北岸、岐阜県の中部(奥美濃)、そしてこの、北アルプスの南部へと続きます。(文献1)、(文献2)
なお書籍や文献によっては「丹波・美濃帯」のことを、近畿地方の領域を「丹波帯」、中部地方の領域を「美濃帯」と表記している場合もありますが、基本的には両者は同じもので、元々分布域によって地帯を命名していた名残りです。
構成している岩石は典型的な付加体型の組み合わせであり、陸地起源の砂岩、泥岩と、海洋起源のチャートなどで構成されています。おそらくジュラ紀の時代、この付近には、今の南海トラフのような海洋プレート沈み込み帯があり、長い間かけて、長くて幅広い付加体が形成されたものと思われます。
霞沢岳から大滝山、蝶ヶ岳までの稜線は、産総研「シームレス地質図v2」で確認すると、主に陸源性の砂岩でできています。砂岩はそれほど浸食に強い岩石ではないので、おそらくそのせいで、この稜線はなだらかなのでしょう。岩場などほとんどありません。大滝山、蝶が岳も、なだらかな馬の背状で、どこが山頂かわからないほどのなだらかさです。
なお、この山稜の南側の、島々谷の流域は、産総研「シームレス地質図v2」で確認すると、「混成岩」(メランジュ相の付加体)が主体で、陸地起源の砂岩、泥岩と、海洋起源の玄武岩、チャートが入り混じっているようです。
また、霞沢岳は、対岸の西穂高の稜線から見ると、わりと目立った山頂をしています。産総研「シームレス地質図v2」で確認すると、霞沢岳山頂近辺に地層の境目があり(北東―南西走向)、山頂より南側は丹波・美濃帯の砂岩ですが、北側は、途中の六百山(標高;2443m)も含め、槍穂高連峰を構成する深成岩(花崗岩)、火山岩(溶結凝灰岩)でできています。そのせいで、山容もやや険しくなっているものと思われます。
なぜ突然、堆積岩の領域に、火成岩(火山岩や深成岩)が入り込んでいるのか?は、2−6章 槍穂連峰の項にて、改めて説明します。
(参考文献)
(文献1)町田、松田、海津、小泉 編
「日本の地形 第5巻 中部」東京大学出版会 刊 (2006) のうち、
1−1章「中部地方の地形と地質の概説」の項
(文献2)日本地質学会 編
「日本地方地質誌 第4巻 中部地方」 朝倉書店 刊 (2006)のうち、
第5部「美濃帯」の、5−1章 「概説」の項
「日本の地形 第5巻 中部」東京大学出版会 刊 (2006) のうち、
1−1章「中部地方の地形と地質の概説」の項
(文献2)日本地質学会 編
「日本地方地質誌 第4巻 中部地方」 朝倉書店 刊 (2006)のうち、
第5部「美濃帯」の、5−1章 「概説」の項
このリンク先の、2−1章の文末には、第2部「北アルプス」の各章へのリンク、及び、序章(本連載の各部へのリンクあり)を付けています。
第2部の他の章や、他の部をご覧になりたい方は、どうぞご利用ください。
第2部の他の章や、他の部をご覧になりたい方は、どうぞご利用ください。
【書記事項】
初版リリース;2020年5月9日
△改訂1;文章見直し、一部修正、追記。章立ての見直し、変更。
写真を2枚追加。2−1章へのリンクを追加。
参考文献の項を作成し、参考文献を記載。山名を追加。書記事項追記。
△最新改訂年月日;2022年1月6日
△改訂1;文章見直し、一部修正、追記。章立ての見直し、変更。
写真を2枚追加。2−1章へのリンクを追加。
参考文献の項を作成し、参考文献を記載。山名を追加。書記事項追記。
△最新改訂年月日;2022年1月6日
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蝶から常念へ行くとき、常念山頂に向けて「うへ〜」とする登りがあります。
あの辺りから花崗岩帯なんですね。そしてところどころ砂岩帯に。
地質は時間の流れが大きすぎて?ですが、興味深く読ませていただきました。
ありがとうございます。
tati87さん、コメントありがとうございます。コメントを頂くと、励みになります、
私は山歩きを始めた頃から、地質、地形に興味が出始め、素人ながら、自分で勉強した内容を、このヤマノートに連載しはじめました。
地質、地形学の専門家では無いので、多少の間違いもあるかも知れませんが、これからしばらく、北アルプス編を続けていきますので、読んで頂けると幸いです。
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