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更新日:2022年01月06日 訪問者数:5091
ジャンル共通 技術・知識
日本の山々の地質;第2部 北アルプス、2−6章(パート1) 槍穂高連峰 ー巨大火山であった、槍穂高連峰−
ベルクハイル
槍穂火山(カルデラ)範囲図
文献1)の図より引用させて頂きました。
地質図に見る、槍穂火山(カルデラ)
赤線で囲った部分が、カルデラに相当する火砕流噴出物の範囲

※産総研「シームレス地質図v2」を元に筆者加筆
カルデラから槍穂連峰ができる概念図
文献1)の図より引用させて頂きました。
(はじめに)
この第2−6章では、北アルプスを代表する山々である、槍ヶ岳から穂高連峰にかけての山々(槍穂高連峰)の地質や成り立ちについて説明します。

なお、槍穂高連峰については、説明したい内容が多いので、
   以下の5回(5項)に分けて説明します。
   (1) 巨大火山であった、槍穂高連峰
   (2) ジャンダルム、および槍穂高連峰西面の深成岩
   (3) 傾きつつ隆起した槍穂高連峰
   (4) 槍ヶ岳、北鎌尾根を構成する岩石
   (5) 古生代の謎の地層群 〜飛騨外縁帯について〜
1)槍穂高連峰の成り立ちに関する概要
 槍穂高連峰は、いうまでもなく、日本を代表する山岳地帯で、ヤマレコユーザーの皆さんも、槍ヶ岳や、穂高連峰の山々に登られた人が多いと思います。

 さて、槍穂高連峰の成り立ちや、構成している地質(岩石)に関しての知見は、1990年頃を境に大きく変わりました。

 以前は、槍穂高連峰を構成している岩石は、「ヒン岩」と呼ばれていました。
「ヒン岩」という岩石は、現在ではほとんど使われなくなった地質学用語ですが、もともとの意味は、火成岩のうち、地表に噴出した火山岩と、地下でマグマが固まってできた深成岩の中間的性質を持つ、「半深成岩」という分類の岩石の一種です。最近は、「半深成岩」という分類自体が使われなくなり、それとともに、「ヒン岩」という用語も使われなくなってきたようです。

 原山氏らのグループのフィールドワークにより、槍穂高連峰を構成する岩石の多くは、深成岩ではなく、火山噴出物である、溶結凝灰岩であることが判明しました(火山噴出物である軽石が、岩の中に含まれていることを発見したことから判明)。
 それとともに、槍〜穂高山群にかけての細長い領域が、実は古い時代の火山噴火の跡(カルデラ)であることも解っており、現在では原山氏らの研究結果がほぼ定説となっています。

以下、この山域で起こった出来事(イベント)を、文献1)に基づき、時系列順に述べていきます。
2)ステージ1;マグマの上昇と火山活動の開始(約200万年前)
 第四紀(注1)の始め頃である、およそ約200万年前、今の槍穂高連峰一帯にはまだ高い山はなく、せいぜいが、数百m〜1000m程度の丘陵地帯であったと考えられています(詳細は、本連載の2−3章を参照)。
 その頃のこの一帯は、両側から引っ張られるような力が働く状態(伸張場)であったと考えられており、それに乗じて、地中深くからマグマが上昇して、地下数kmあたりにマグマだまりが形成されました。
 そして地下の割れ目を通じてさらにマグマが上昇し、火山活動が始まったと考えられます。なお火山活動の始まりの頃のことは、その後の大噴火とカルデラ形成により、詳しいことは解っていません。


 注1)地質時代の区分の一つである「第四紀」の期間について、2009年を境に、定義が変更となりました。2009年以前は、第四紀の始まりを約180万年前としていましたが、国際機関による審議に基づき、2009年より、第四紀の始まりは、約259万円前に変更になりました。
3)ステージ2;「槍穂火山」の大噴火、カルデラ形成、溶結凝灰岩の形成(約176万年前)
 約176〜175万年前に、槍が岳〜南岳〜穂高連峰までの紡錘形状の細長い領域(長さ 約16km、幅 約6km)で、巨大噴火が生じました。
   (※ 以下、この火山を「槍穂火山」と称することにします。)
 巨大噴火は計2回起き、1回目での噴出量は約400km^3、2回目での噴出量は約300km^3 と推定されており、相当大きな噴火でした。(注2)

(注2;ちなみに、日本最大級のカルデラをもつ阿蘇山は、約27万年前〜約9万年前までの間に、4回の巨大噴火を起こしており、それぞれAso-1,2,3,4という名前が付いています。4回とも噴出量は約100km^3のオーダーと推定されています。特に9万年前のAso−4が最大規模で、その火砕流噴出物は九州一円を覆っただけでなく、瀬戸内海を越え、山口県まで到達しています。また火山灰(広域テフラ)は関東地方まで到達しています;(文献2))

 ということで、槍穂火山の大噴火は、阿蘇山の巨大噴火と同レベルか、さらに大きいくらいのレベルだったと思われます。

 巨大噴火により、火砕流の発生、および火山灰の広範囲にわたる降下が生じ、降下火山灰は、東は房総半島、西は淡路島まで見つかっています。
また火砕流は、西には高山市あたりでも層厚100m程度と、かなり大量に流れています。

 一方、噴出物の一部は槍穂火山の周辺にうずたかく積もりました。そのうちに、積もった火山灰(+軽石)は、まだそれ自身が持つ高熱によって再溶解して、溶結凝灰岩という固い岩石になりました。

 また、巨大噴火が起こった場所は噴火とほぼ同時に、阿蘇山のように、陥没してカルデラ(深さ 約3000m)を作りました。またカルデラ内にも噴出物が降り積もり、溶結凝灰岩の分厚い層(約1500m厚)でおおわれました。

 なお、成分的には、産総研「シームレス地質図v2」によると、デイサイト〜流紋岩質ということで、ややシリカリッチなマグマです。(現在の日本の火山では、シリカ分が中くらいの、安山岩質が多い)
4)ステージ3;カルデラ形成後の状態(約175万年前〜約100万年前)
 槍穂火山の噴火は176万年前、175万年前の2回の巨大噴火の後、しばらくは火山活動が続き、周辺一帯に、何層もの凝灰角礫岩の層を作りました。またカルデラ内は、カルデラの周囲よりも低い状態だったと考えられていますが、そのために、周辺から流れてきた川がカルデラ内に流れ込むとともに、川が運んできた礫(石ころ)が、カルデラ内に堆積しました。この時の礫層、および凝灰角礫岩の地層は、大キレットから南岳へと登る急斜面の一部に層をなして露出している、とのことです。
 なお、火山活動は徐々に衰えていったと思われますが、いつ頃火山活動が終わったのかは、はっきりしていないようです。
5)ステージ4; 北アルプスの急速な隆起、それによる槍穂連峰の形成(約100万年前〜現在)
 槍穂連峰を含む北アルプスは、最近の研究で、2段階の隆起活動があったと考えられています(詳しくは、2−3章を参照)。
 
 北アルプス隆起の2段階目(約100万年前〜)(注3)により、槍穂高一帯もどんどんと隆起し、カルデラの外側にあった外輪山は浸食により削れてしまいました。
 一方、カルデラ内の溶結凝灰岩の層は浸食に強い固い岩石だったため、あまり削れずにそのまま隆起を続け、結局、今のように、約3000m級の険しい岩山となった、というわけです(注4)。

注3) 北アルプス隆起の第二段目の隆起開始時期については、まだ精度の良い解析はできてないようです。文献1)の記載では、約100万年前〜、となっていますが、文献3)では、隆起の始まりを約130万年前と推定しています。

注4)氷河期における氷河による浸食作用も、槍穂連峰の山容に大きく影響していますが、いくつかの地理学のテキストに詳しく書かれているものがあるので、ここでの説明は割愛します。

 なお、産総研「シームレス地質図v2」によると、この溶結凝灰岩の地層は、前穂高岳、明神岳、奥穂高岳、涸沢岳、北穂高岳の山頂部及び稜線、また涸沢カールなどの稜線東側にも広がっています。また北は、大キレット、南岳、中岳、槍ヶ岳(槍ヶ岳は正確に言うと、凝灰角礫岩)まで、伸びています。
 さらに、上高地、梓川を挟んで南側にある六百山もこの溶結凝灰岩で出来ています。ということは、巨大噴火とカルデラ形成当時、槍穂火山の南限は六百山付近であり、現在、その間を流れている梓川の谷は、その後の河川浸食によってできた、と考えられます。
(参考文献)
文献1)原山、山本 共著
    「超火山 「槍・穂高」」 山と渓谷社 刊(2003)


文献2)町田、太田、河名、森脇、長岡 編
   「日本の地形 第7巻 九州・南西諸島」東京大学出版会 刊 (2001)
    のうち、2−2−(2)節 「阿蘇火山ー火の国のシンボル」の項


文献3)及川「飛騨山脈の隆起と火成活動の時空的関連」、及川、
   第四紀研究誌、42(3)、p141−156 (2003)

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jaqua1957/42/3/42_3_141/_pdf
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