(はじめに)
この2−6章(パート2)では、槍穂高連峰の地質のうち、深成岩でできた地質の部分について説明します。
深成岩とは、マグマ由来の岩石の一種で、火山岩の場合は地表に噴出した岩石を意味しますが、深成岩とは、マグマが地表に噴出せず、地中で固化した岩石です(文献1)。
槍穂高連峰の西面には、深成岩が一部、露出しており、槍穂高連峰の隆起の歴史を解明する重要なポイントとなっています。
具体的には、奥穂高岳から西穂高岳までのいわゆる西奥縦走路(以下、「西奥稜線」と略す)や滝谷付近の深成岩領域について説明します。
西奥稜線は、北アルプスの通常登山道(=ロッククライミングルート、沢登りルート、バリエーションルート以外)では、最難関ルートと言われており、切り立った岩峰群をいくつも越えていく、難度の高いルートとして有名です。その中でも、奥穂高岳山頂からほど近くにそびえる、怪峰「ジャンダルム」は、最近では中級以上の登山者にとって、一度は行ってみたいピークとして有名になっています。
深成岩とは、マグマ由来の岩石の一種で、火山岩の場合は地表に噴出した岩石を意味しますが、深成岩とは、マグマが地表に噴出せず、地中で固化した岩石です(文献1)。
槍穂高連峰の西面には、深成岩が一部、露出しており、槍穂高連峰の隆起の歴史を解明する重要なポイントとなっています。
具体的には、奥穂高岳から西穂高岳までのいわゆる西奥縦走路(以下、「西奥稜線」と略す)や滝谷付近の深成岩領域について説明します。
西奥稜線は、北アルプスの通常登山道(=ロッククライミングルート、沢登りルート、バリエーションルート以外)では、最難関ルートと言われており、切り立った岩峰群をいくつも越えていく、難度の高いルートとして有名です。その中でも、奥穂高岳山頂からほど近くにそびえる、怪峰「ジャンダルム」は、最近では中級以上の登山者にとって、一度は行ってみたいピークとして有名になっています。
1)貫入岩ゾーン(ジャンダルム、西奥稜線)
西奥稜線を歩いている際は、普通、岩の質などに気を留める余裕はなく、全体に灰色っぽい岩場、岩峰が続く感じですが、産総研「シームレス地質図v2」でよくよく確認すると、ジャンダルム付近は、奥穂高岳山頂部、西穂高岳山頂部を構成している溶結凝灰岩ではなく、「閃緑斑岩(せんりょくはんがん)」(文献1、文献6での表記)(注1)、もしくは「デイサイト/流紋岩質 貫入岩」(産総研「シームレス地質図v2」での表記)と呼ばれる、マグマが地下で固まった、深成岩の一種で出来ています。
この「デイサイト/流紋岩質 貫入岩」は、槍穂火山が巨大噴火した数万年後(約170万年前)、まだ地下に残っていたマグマが、上に積もった溶結凝灰岩の層へと上昇してきて、途中で固まったものです。その後、上に乗っかっていた溶結凝灰岩層が浸食されて、現在は稜線上に出てきています。この「デイサイト/流紋岩質 貫入岩」は、成分的には火山として噴出した溶結凝灰岩とほとんど差はなく、また岩としての固さも溶結凝灰岩と大きな差はないようですが、マグマが冷却して収縮したときにできる、「節理」(せつり;岩にできる規則的な割れ目)が明瞭なのが特徴です(文献1)。
ジャンダルムは、稜線上よりむしろ、涸沢岳あたりや、穂高岳山荘あたりから望む北壁が圧倒的な印象を受けますが、この北壁に、縦に走った節理が良く見え、岩峰としての迫力を誇示しています。
この「デイサイト/流紋岩質 貫入岩」の分布域は、産総研「シームレス地質図v2」によると、全体としてひらがなの「し」の字の形で分布していて、大キレットの西側中腹から滝谷中腹を通り、西奥稜線(ジャンダルム、天狗の頭、間の岳を含む)を通り、岳沢の上部、さらに釣り尾根を経て、涸沢の上部へと続いています。
注1)文献1)では、この一帯の岩石の名称を「閃緑斑岩」としていますが、私の手持ちの、数冊の岩石図鑑(文献2,3)や岩石学の専門書(文献4)には「閃緑斑岩」という岩石は記載されていません。
以前は、火成岩を、火山岩/深成岩/半深成岩(火山岩と深成岩との中間的なもの)の3区分することが多かったようで、「閃緑斑岩」は半深成岩の一種の名前と思われます(文献5)。
現在は、火山岩や深成岩との間で定義、区別が難しい「半深成岩」という区分が使われなくなってきているために、近年の岩石図鑑などでは使われない岩石名だと思われます。
そこで本章では「閃緑斑岩」の代わりに、産総研「シームレス地質図v2」の表記に従い、「デイサイト/流紋岩質 貫入岩」という名称にしました。
この「デイサイト/流紋岩質 貫入岩」は、槍穂火山が巨大噴火した数万年後(約170万年前)、まだ地下に残っていたマグマが、上に積もった溶結凝灰岩の層へと上昇してきて、途中で固まったものです。その後、上に乗っかっていた溶結凝灰岩層が浸食されて、現在は稜線上に出てきています。この「デイサイト/流紋岩質 貫入岩」は、成分的には火山として噴出した溶結凝灰岩とほとんど差はなく、また岩としての固さも溶結凝灰岩と大きな差はないようですが、マグマが冷却して収縮したときにできる、「節理」(せつり;岩にできる規則的な割れ目)が明瞭なのが特徴です(文献1)。
ジャンダルムは、稜線上よりむしろ、涸沢岳あたりや、穂高岳山荘あたりから望む北壁が圧倒的な印象を受けますが、この北壁に、縦に走った節理が良く見え、岩峰としての迫力を誇示しています。
この「デイサイト/流紋岩質 貫入岩」の分布域は、産総研「シームレス地質図v2」によると、全体としてひらがなの「し」の字の形で分布していて、大キレットの西側中腹から滝谷中腹を通り、西奥稜線(ジャンダルム、天狗の頭、間の岳を含む)を通り、岳沢の上部、さらに釣り尾根を経て、涸沢の上部へと続いています。
注1)文献1)では、この一帯の岩石の名称を「閃緑斑岩」としていますが、私の手持ちの、数冊の岩石図鑑(文献2,3)や岩石学の専門書(文献4)には「閃緑斑岩」という岩石は記載されていません。
以前は、火成岩を、火山岩/深成岩/半深成岩(火山岩と深成岩との中間的なもの)の3区分することが多かったようで、「閃緑斑岩」は半深成岩の一種の名前と思われます(文献5)。
現在は、火山岩や深成岩との間で定義、区別が難しい「半深成岩」という区分が使われなくなってきているために、近年の岩石図鑑などでは使われない岩石名だと思われます。
そこで本章では「閃緑斑岩」の代わりに、産総研「シームレス地質図v2」の表記に従い、「デイサイト/流紋岩質 貫入岩」という名称にしました。
2)花崗閃緑岩ゾーン(穂高西面、滝谷)
槍穂高連峰にはもう一つ、違った種類の岩石が分布しており、「滝谷花崗閃緑岩(体)」という固有名がついています。花崗閃緑岩(かこうせんりょくがん)とは、花崗岩の兄弟のような深成岩であり(文献2、文献3)、地下のマグマだまりにあったマグマが冷却して形成されたものです。この岩体の最大の特徴は、形成年代が深成岩にしては非常に若い(新しい)、ということです。形成年代(固化した時期)は、約130万年前と推定されています。(文献1)、(文献6)
通常、マグマだまりは地下3−10km程度の深さに形成されます。そのマグマがその場所で固まったのち、地表に出てくるまで、通常は数千万年かかることが多いそうですが、この岩体は3000〜10000m(3−10km)もの上昇を、130万年で果たしたということで、北アルプスの隆起速度が非常に大きかったことの証拠といえます。(文献1)、(文献6)
なお、この花崗閃緑岩の分布域は、産総研「シームレス地質図v2」によると、西穂高〜奥穂高〜北穂高〜大キレット〜槍ヶ岳の稜線の西側斜面に分布しており、通常の穂高連連峰登山コースにはあまり分布していないようです。唯一、主要登山道でこのゾーンを通っているのは、新穂高ロープウエーの山上駅から西穂山荘までの登山道、および西穂山荘から丸山付近です。
花崗閃緑岩は花崗岩と同様、鉱物の粒子径が大きいので風化に弱くてザレとなりやすく、そのために、丸山あたりもその名の通り、丸っこい山容です。丸山から先、独標との間に地質境界があり、その先は風化に強いと思われる「デイサイト/流紋岩質 貫入岩」の領域となるため、いきなり独標から岩場が現れ、西奥稜線の険しい岩稜が続きます。
通常、マグマだまりは地下3−10km程度の深さに形成されます。そのマグマがその場所で固まったのち、地表に出てくるまで、通常は数千万年かかることが多いそうですが、この岩体は3000〜10000m(3−10km)もの上昇を、130万年で果たしたということで、北アルプスの隆起速度が非常に大きかったことの証拠といえます。(文献1)、(文献6)
なお、この花崗閃緑岩の分布域は、産総研「シームレス地質図v2」によると、西穂高〜奥穂高〜北穂高〜大キレット〜槍ヶ岳の稜線の西側斜面に分布しており、通常の穂高連連峰登山コースにはあまり分布していないようです。唯一、主要登山道でこのゾーンを通っているのは、新穂高ロープウエーの山上駅から西穂山荘までの登山道、および西穂山荘から丸山付近です。
花崗閃緑岩は花崗岩と同様、鉱物の粒子径が大きいので風化に弱くてザレとなりやすく、そのために、丸山あたりもその名の通り、丸っこい山容です。丸山から先、独標との間に地質境界があり、その先は風化に強いと思われる「デイサイト/流紋岩質 貫入岩」の領域となるため、いきなり独標から岩場が現れ、西奥稜線の険しい岩稜が続きます。
(参考文献)
文献1)原山、山本 共著
「超火山「槍・穂高」」 山と渓谷社 刊 (2003)
のうち、第1部、ステージ3章
文献2)西本 著
「観察を楽しむ、特徴がわかる 岩石図鑑」 ナツメ社 刊 (2020)
文献3)チームG 編
「薄片でよくわかる岩石図鑑」 誠文堂新光社 刊 (2014)
文献4)榎並 著
「現代地球科学入門シリーズ 第16巻 岩石学」共立出版 刊 (2013)
文献5)地学団体研究会 編
「新地学教育講座 第4巻 岩石」 東海大学出版会 刊 (1976)
文献6)原山、大藪、深山、足立、宿輪
「飛騨山脈東半分における前期更新世後半からの傾動・隆起運動」
第四紀研究 誌 第42巻 p127-140 (2003)
「超火山「槍・穂高」」 山と渓谷社 刊 (2003)
のうち、第1部、ステージ3章
文献2)西本 著
「観察を楽しむ、特徴がわかる 岩石図鑑」 ナツメ社 刊 (2020)
文献3)チームG 編
「薄片でよくわかる岩石図鑑」 誠文堂新光社 刊 (2014)
文献4)榎並 著
「現代地球科学入門シリーズ 第16巻 岩石学」共立出版 刊 (2013)
文献5)地学団体研究会 編
「新地学教育講座 第4巻 岩石」 東海大学出版会 刊 (1976)
文献6)原山、大藪、深山、足立、宿輪
「飛騨山脈東半分における前期更新世後半からの傾動・隆起運動」
第四紀研究 誌 第42巻 p127-140 (2003)
このリンク先の、2−1章の文末には、第2部「北アルプス」の各章へのリンク、及び、序章(本連載の各部へのリンクあり)を付けています。
第2部の他の章や、他の部をご覧になりたい方は、どうぞご利用ください。
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【書記事項】
初版リリース;2020年5月15日
△改訂1;章の名称を若干変更。章内を各項に分割。文章見直し、加筆、修正。
「閃緑斑岩」という岩石名を「デイサイト/流紋岩質 貫入岩」という表記に変更。
写真入れ替え。地質図への説明を追記。
(参考文献)の項を新設、記入。山名を追加。
2−1章へのリンクを追加。書記事項を追加。
△最新改訂年月日;2022年1月7日
△改訂1;章の名称を若干変更。章内を各項に分割。文章見直し、加筆、修正。
「閃緑斑岩」という岩石名を「デイサイト/流紋岩質 貫入岩」という表記に変更。
写真入れ替え。地質図への説明を追記。
(参考文献)の項を新設、記入。山名を追加。
2−1章へのリンクを追加。書記事項を追加。
△最新改訂年月日;2022年1月7日
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