(はじめに)
夕張山地(ゆうばりさんち)は、北海道のほぼ中央部、石狩平野と富良野盆地との間にある、南北 約50km、東西の幅 約30kmの山地です。
夕張山地のうち、登山対象となっている山としては、主峰 夕張岳(ゆうばりだけ:1668m)、最高峰の芦別岳(あしべつだけ:1727m)、崕山(きりぎしやま:1057m)などがあります。
夕張岳は、蛇紋岩の多い山で、蛇紋岩地質に特有の高山植物が多く、花の名山としても有名です。芦別岳は北海道には珍しい岩峰状の急峻な山です。また崕山は、標高は低いながら、石灰岩でできた岩峰が林立する変わった山容の山です。(文献3)。
夕張山地は、主稜線の西側は石狩平野へと徐々に高度を下げていきますが、主稜線の東側は急斜面となって富良野盆地へと落ち込んでいます。そのため、富良野盆地側との間に断層(おそらく活断層)があって、片上がりとなった傾動山地(けいどうさんち)と考えられています(文献1)、(文献4)。
夕張山地の形成、隆起、浸食については、まだ明確な地史は解っていないようで、文献によっても内容の一致が見られません。
このうち(文献1)、(文献4)では、夕張山地の西側にある堆積岩層の解析により、夕張山地は、新第三紀 中新世中期以降、本格的な隆起が始まり、山地となっていった、と推定しています。この時代、石狩平野に近い部分の中新世の海成堆積層である、滝の上層などには、夕張山地の主稜線部を構成する「神居古潭帯」由来の粗粒の礫が含まれているのが、その証拠の一つとされています。その後、剥離、浸食が進んでいったん高度が低下し、夕張岳西側の準平原状の地形が形成され、第四紀になって再び、傾動型の隆起活動により現在の山地を形成した、と推定しています。
一方、(文献2)各章では、夕張山地の形成、隆起に関する直接的な言及はありません。
また、(文献5)では、先行谷である空知川に関する考察により、日高山脈がまず約10Ma頃から隆起してそこから流れる空知川ができ、その後に夕張山地が隆起したが、その隆起した時代は明確ではない、と考察しています。
この山地の地質は、地帯構造区分では、8−2章で説明した「空知―エゾ帯」に含まれますが、実際はかなり複雑な地質構造を持っており、地質学的にも興味深い山地です。
※ ”Ma”は百万年前を意味する単位
夕張山地のうち、登山対象となっている山としては、主峰 夕張岳(ゆうばりだけ:1668m)、最高峰の芦別岳(あしべつだけ:1727m)、崕山(きりぎしやま:1057m)などがあります。
夕張岳は、蛇紋岩の多い山で、蛇紋岩地質に特有の高山植物が多く、花の名山としても有名です。芦別岳は北海道には珍しい岩峰状の急峻な山です。また崕山は、標高は低いながら、石灰岩でできた岩峰が林立する変わった山容の山です。(文献3)。
夕張山地は、主稜線の西側は石狩平野へと徐々に高度を下げていきますが、主稜線の東側は急斜面となって富良野盆地へと落ち込んでいます。そのため、富良野盆地側との間に断層(おそらく活断層)があって、片上がりとなった傾動山地(けいどうさんち)と考えられています(文献1)、(文献4)。
夕張山地の形成、隆起、浸食については、まだ明確な地史は解っていないようで、文献によっても内容の一致が見られません。
このうち(文献1)、(文献4)では、夕張山地の西側にある堆積岩層の解析により、夕張山地は、新第三紀 中新世中期以降、本格的な隆起が始まり、山地となっていった、と推定しています。この時代、石狩平野に近い部分の中新世の海成堆積層である、滝の上層などには、夕張山地の主稜線部を構成する「神居古潭帯」由来の粗粒の礫が含まれているのが、その証拠の一つとされています。その後、剥離、浸食が進んでいったん高度が低下し、夕張岳西側の準平原状の地形が形成され、第四紀になって再び、傾動型の隆起活動により現在の山地を形成した、と推定しています。
一方、(文献2)各章では、夕張山地の形成、隆起に関する直接的な言及はありません。
また、(文献5)では、先行谷である空知川に関する考察により、日高山脈がまず約10Ma頃から隆起してそこから流れる空知川ができ、その後に夕張山地が隆起したが、その隆起した時代は明確ではない、と考察しています。
この山地の地質は、地帯構造区分では、8−2章で説明した「空知―エゾ帯」に含まれますが、実際はかなり複雑な地質構造を持っており、地質学的にも興味深い山地です。
※ ”Ma”は百万年前を意味する単位
1)夕張岳の地質と地形
夕張岳は、産総研「シームレス地質図v2」で確認すると、その山体のかなりの部分が、マントル由来の岩石である蛇紋岩で出来ています。また、山頂部など一部には、変成岩の一種、結晶片岩が分布しています。また所々に、海洋地殻起源と思われる(変成)玄武岩が分布しています。一方、山麓部には、堆積岩である泥岩、砂岩、砂泥互層が分布しています。
このように、非常に多様な地質構成を持っている山です。
このうち蛇紋岩と結晶片岩類は、「空知―エゾ帯」の亜帯の一つである、「神居古潭帯(かむいこたんたい)」に属する地質です(文献2−a)。
(変成)玄武岩は、「空知―エゾ帯」の亜帯の一つである、「空知層群(そらちそうぐん)」に属する地質です(文献2−b)。
泥岩、砂岩、砂泥互層は、「空知―エゾ帯」の亜帯の一つである、「蝦夷層群(えぞそうぐん)」に属する地質です(文献2−c)。
「空知―エゾ帯」はこのように、下位区分である「亜帯」がキレイには並んでおらず、かなりバラバラに分布しているのが、特徴ともいえます。
さて、その夕張岳は、一般的な登山道である西側からの登山道を行くと、緩やかな登りから徐々に傾斜がきつくなり、岩峰(前岳)を巻くようにして急坂を登ると、高原状のプラトー部にでます。
ここが地質境界にもなっており、緩やかな登りの部分は蝦夷層群の堆積岩で出来ている部分で、プラトー部分は、大部分が蛇紋岩でできた台地です。
このプラトー部は、(文献1)によると、いわゆる隆起準平原と推定されており、いったん隆起して山地が形成されたのち、剥離、浸食作用によって高度が低くなった時期の遺物と考えられています。
蛇紋岩でできたプラトー部には、さらにいくつかの岩峰状の高まりがあり、前岳、ガマ岩、そして夕張岳山頂部も、岩峰状の高まりです。これらの岩峰群は、また異なった地質で、高圧型変成岩の一種、結晶片岩(神居古潭 結晶片岩類)でできています。
(文献1)によると、プラトー部の蛇紋岩領域は、風化・浸食によってなだらかな高原状の地形を作ったと考えられています。一方、プラトー部に点在する結晶片岩でできた岩峰群は、準平原時代に起源を持ち、蛇紋岩領域より風化・浸食への抵抗力が強かったために残った、残丘だと考えられています。
超苦鉄質岩類である蛇紋岩領域には、北アルプスの八方尾根や、東北の早池峰山と同様、超苦鉄質岩類に特有の高山植物が多く、6−8月には花の多い高原となります。
このように、非常に多様な地質構成を持っている山です。
このうち蛇紋岩と結晶片岩類は、「空知―エゾ帯」の亜帯の一つである、「神居古潭帯(かむいこたんたい)」に属する地質です(文献2−a)。
(変成)玄武岩は、「空知―エゾ帯」の亜帯の一つである、「空知層群(そらちそうぐん)」に属する地質です(文献2−b)。
泥岩、砂岩、砂泥互層は、「空知―エゾ帯」の亜帯の一つである、「蝦夷層群(えぞそうぐん)」に属する地質です(文献2−c)。
「空知―エゾ帯」はこのように、下位区分である「亜帯」がキレイには並んでおらず、かなりバラバラに分布しているのが、特徴ともいえます。
さて、その夕張岳は、一般的な登山道である西側からの登山道を行くと、緩やかな登りから徐々に傾斜がきつくなり、岩峰(前岳)を巻くようにして急坂を登ると、高原状のプラトー部にでます。
ここが地質境界にもなっており、緩やかな登りの部分は蝦夷層群の堆積岩で出来ている部分で、プラトー部分は、大部分が蛇紋岩でできた台地です。
このプラトー部は、(文献1)によると、いわゆる隆起準平原と推定されており、いったん隆起して山地が形成されたのち、剥離、浸食作用によって高度が低くなった時期の遺物と考えられています。
蛇紋岩でできたプラトー部には、さらにいくつかの岩峰状の高まりがあり、前岳、ガマ岩、そして夕張岳山頂部も、岩峰状の高まりです。これらの岩峰群は、また異なった地質で、高圧型変成岩の一種、結晶片岩(神居古潭 結晶片岩類)でできています。
(文献1)によると、プラトー部の蛇紋岩領域は、風化・浸食によってなだらかな高原状の地形を作ったと考えられています。一方、プラトー部に点在する結晶片岩でできた岩峰群は、準平原時代に起源を持ち、蛇紋岩領域より風化・浸食への抵抗力が強かったために残った、残丘だと考えられています。
超苦鉄質岩類である蛇紋岩領域には、北アルプスの八方尾根や、東北の早池峰山と同様、超苦鉄質岩類に特有の高山植物が多く、6−8月には花の多い高原となります。
2)芦別岳の地質と地形
芦別岳(あしべつだけ:1727m)は、夕張山地の最高峰であり、岩峰状の鋭い山容が特徴です。芦別岳付近は「空知―エゾ帯」のうち、「空知層群」の地質が分布しており、空知層群の模式地として研究が行われています(文献2−b)。
また地形的にも、急峻な山容と、深い谷(ユーフレ谷)を持ち、夕張岳の地形とはかなり異なり、特徴的です。この(2)節では、芦別岳の地質と地形的特徴について説明します。
芦別岳は山体の大部分が、「空知層群(そらちそうぐん)」と呼ばれる地質でできています。具体的には玄武岩やそれを原岩とする変質した緑色岩類と、一部チャートを含みます。
元々は海洋地殻(海洋プレート)の上部を構成していた部分が、ジュラ紀後期〜白亜紀前期にかけ、西向きの海洋プレート沈み込み帯で付加したものと考えられています(文献2−b)。
芦別岳付近の地質を、産総研「シームレス地質図v2」で確認すると、山頂部を含む南北の稜線部(幅 3−4km)は、上記の「空知層群」の地質でできていますが、その両側(東側、西側)は、堆積岩(砂岩、泥岩等)が分布しており、「空知層群」の構造的上位の地質にあたる、「蝦夷層群(えぞそうぐん)」にあたります。また西側には「空知層群」と「蝦夷層群」の間に、夕張岳から続く、蛇紋岩の分布が南北に細長く続いています。これは「地帯」で言うと「神居古潭帯(かむいこたんたい)」にあたります。
続いて、芦別岳の地形的特徴について述べます。
芦別岳は、富良野盆地から急角度でそびえていますが、盆地と山地との間には断層があると推定されており、断層活動によって隆起した山と考えられています(文献1)。
また(文献1)によると、山頂部付近は「空知層群」のうち、玄武岩質の枕状溶岩からなり、浸食に対して抵抗力が強かったために、岩峰状の山頂部を形成したと考えられています。
一方、芦別岳に北東側から深く切れ込むユーフレ谷は、夏まで残雪が残る谷で、氷河期には氷河があった可能性も考えられます。が、(文献1)によると、崩壊型の地形が多いため、明確な氷食地形は、今までのところ、確認されていません。
また地形的にも、急峻な山容と、深い谷(ユーフレ谷)を持ち、夕張岳の地形とはかなり異なり、特徴的です。この(2)節では、芦別岳の地質と地形的特徴について説明します。
芦別岳は山体の大部分が、「空知層群(そらちそうぐん)」と呼ばれる地質でできています。具体的には玄武岩やそれを原岩とする変質した緑色岩類と、一部チャートを含みます。
元々は海洋地殻(海洋プレート)の上部を構成していた部分が、ジュラ紀後期〜白亜紀前期にかけ、西向きの海洋プレート沈み込み帯で付加したものと考えられています(文献2−b)。
芦別岳付近の地質を、産総研「シームレス地質図v2」で確認すると、山頂部を含む南北の稜線部(幅 3−4km)は、上記の「空知層群」の地質でできていますが、その両側(東側、西側)は、堆積岩(砂岩、泥岩等)が分布しており、「空知層群」の構造的上位の地質にあたる、「蝦夷層群(えぞそうぐん)」にあたります。また西側には「空知層群」と「蝦夷層群」の間に、夕張岳から続く、蛇紋岩の分布が南北に細長く続いています。これは「地帯」で言うと「神居古潭帯(かむいこたんたい)」にあたります。
続いて、芦別岳の地形的特徴について述べます。
芦別岳は、富良野盆地から急角度でそびえていますが、盆地と山地との間には断層があると推定されており、断層活動によって隆起した山と考えられています(文献1)。
また(文献1)によると、山頂部付近は「空知層群」のうち、玄武岩質の枕状溶岩からなり、浸食に対して抵抗力が強かったために、岩峰状の山頂部を形成したと考えられています。
一方、芦別岳に北東側から深く切れ込むユーフレ谷は、夏まで残雪が残る谷で、氷河期には氷河があった可能性も考えられます。が、(文献1)によると、崩壊型の地形が多いため、明確な氷食地形は、今までのところ、確認されていません。
(参考文献)
文献1) 小畔(※)、野上、小野、平川 編
「日本の地形 第2巻 北海道」 東京大学出版会 刊 (2003)
のうち、4−6章「夕張山地」の項
※ 「畦」(あぜ)は、本来は旧字体
文献2)日本地質学会 編
「日本地方地質誌 第1巻 北海道」朝倉書店 刊 (2010)
文献2−a)
文献2)のうち、2−2−3節「空知―エゾ帯の付加体」の、
d項 「神居古潭帯」の項
文献2−b)
文献2)のうち、2−2−3節「空知―エゾ帯の付加体」の、
b項 「空知層群」の項
文献2−c)
文献2)のうち、2−3−2節「空知―エゾ帯の蝦夷層群」の、
c項 「羽幌―士別地域および芦別―夕張―穂別地域の蝦夷層群」の項
文献2−d)
文献2)のうち、第5部「新第三紀の島弧会合部の地質体」の、
5−3−3節「夕張―馬追(うまおい)地区」の項
文献3) ヤマケイ アルペンガイド
「北海道の山」 山と渓谷社 刊 (2000)
のうち、「夕張山地」の項
文献4)貝塚、鎮西 著
「日本の自然シリーズ 第2巻 日本の山」、岩波書店 刊 (1986)
2−2章「天塩山地と夕張山地」の項
文献5)インターネット情報、
在田 著
「北海道の自然」 第44巻
「日高山脈と夕張―芦別山地の生い立ち」 (リリース年 不明)
http://kitamap.net/wp-content/uploads/library/nih44_05.pdf
文献6) 木村、宮坂、亀田 共著
「揺れ動く大地 プレートと北海道」 北海道新聞社 刊 (2018)
(文献6は、全体的に参照した)
「日本の地形 第2巻 北海道」 東京大学出版会 刊 (2003)
のうち、4−6章「夕張山地」の項
※ 「畦」(あぜ)は、本来は旧字体
文献2)日本地質学会 編
「日本地方地質誌 第1巻 北海道」朝倉書店 刊 (2010)
文献2−a)
文献2)のうち、2−2−3節「空知―エゾ帯の付加体」の、
d項 「神居古潭帯」の項
文献2−b)
文献2)のうち、2−2−3節「空知―エゾ帯の付加体」の、
b項 「空知層群」の項
文献2−c)
文献2)のうち、2−3−2節「空知―エゾ帯の蝦夷層群」の、
c項 「羽幌―士別地域および芦別―夕張―穂別地域の蝦夷層群」の項
文献2−d)
文献2)のうち、第5部「新第三紀の島弧会合部の地質体」の、
5−3−3節「夕張―馬追(うまおい)地区」の項
文献3) ヤマケイ アルペンガイド
「北海道の山」 山と渓谷社 刊 (2000)
のうち、「夕張山地」の項
文献4)貝塚、鎮西 著
「日本の自然シリーズ 第2巻 日本の山」、岩波書店 刊 (1986)
2−2章「天塩山地と夕張山地」の項
文献5)インターネット情報、
在田 著
「北海道の自然」 第44巻
「日高山脈と夕張―芦別山地の生い立ち」 (リリース年 不明)
http://kitamap.net/wp-content/uploads/library/nih44_05.pdf
文献6) 木村、宮坂、亀田 共著
「揺れ動く大地 プレートと北海道」 北海道新聞社 刊 (2018)
(文献6は、全体的に参照した)
在田氏 著
このリンク先の、8−1章の文末には、第8部「北海道の山々の地質」の各章へのリンクを付けています。
第8部の他の章をご覧になりたい方は、どうぞご利用ください。
第8部の他の章をご覧になりたい方は、どうぞご利用ください。
【書記事項】
初版リリース;2021年8月2日
△改訂1;文章見直し、リンク先の整理、書記事項の追記(2021年12月26日)
△最新改訂年月日;2021年12月26日
△改訂1;文章見直し、リンク先の整理、書記事項の追記(2021年12月26日)
△最新改訂年月日;2021年12月26日
お気に入りした人
人
拍手で応援
拍手した人
拍手
ベルクハイルさんの記事一覧
- 日本の山々の地質;第7部 東北地方の山々の地質;7−9章 奥羽山脈(3)奥羽山脈の非火山の山々、及び奥羽山脈の隆起について 9 更新日:2024年01月27日
- 日本の山々の地質;第7部 東北地方の山々の地質、7−8章 奥羽山脈(2) 奥羽山脈南半分の火山群 11 更新日:2024年01月15日
- 日本の山々の地質 第1部 四国地方の山々の地質、 1−10章 香川県の山々;讃岐山地、香川県の山々の地質と地形 18 更新日:2023年03月18日
※この記事はヤマレコの「ヤマノート」機能を利用して作られています。
どなたでも、山に関する知識や技術などのノウハウを簡単に残して共有できます。
ぜひご協力ください!
コメントを編集
いいねした人
コメントを書く
ヤマレコにユーザー登録いただき、ログインしていただくことによって、コメントが書けるようになります。ヤマレコにユーザ登録する