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更新日:2021年12月25日 訪問者数:1009
ジャンル共通 技術・知識
日本の山々の地質;第9部 関東、中部地方の火山、その形成史;9−7章 乗鞍火山列の火山群と白山  ―焼岳、乗鞍岳、御嶽、白山―
ベルクハイル
焼岳
中景が焼岳、溶岩ドーム状の特徴的な形状が良く解る。
なお遠景は、乗鞍岳。

※ 西穂山荘付近より、筆者撮影(1995年)
乗鞍岳の山頂部
畳平付近を登山道より写す。火口湖(鶴ヶ池)の周りに小型の火山(恵比寿岳、大黒岳など)が取り囲んでいる様子が解る。


※ 筆者撮影 (1997年)
噴煙を上げる御嶽
※ 「ヤマレコ内の山のデータ」より引用させてもらいました。
 撮影は2014年とのこと。
白山の山頂部
右奥が最高峰の御前峰、中央やや左手の尖峰状のピークが剣ヶ峰。左下は、翠ヶ池(みどりがいけ)という火口湖。
山頂部は、火口湖や小型の火山性ピークで構成されていることが解る。

※ 筆者撮影
(はじめに)
 この第9−7章では、北アルプス中の活火山である焼岳、及び北アルプスから南方向へと続く線上にある大型成層火山である、乗鞍岳、御嶽について、その形成史を中心に説明します。 
 また、位置的に他の火山とは少し離れてはいますが、北陸地方にある火山、白山についても、合わせて説明します。

 北アルプスには他にも山脈中に小型火山がいくつかあり、それらはこの連載のうち、「第2部 北アルプス編」で説明しています。
 この、北アルプスの中にある火山群と、乗鞍岳、御嶽は、北北東―南南西の方向をもった線状に並んでおり、1970年代頃までは、「乗鞍火山帯」と呼ばれていました(文献1)。
 その後、プレートテクトニクスの観点を踏まえ、火山を細かく「〇〇火山帯」と区分するやり方が無くなり、「乗鞍火山帯」という言葉は、事実上使われなくなっています。
 
 ただし、本文でも述べるように、これらの火山群は、北アルプスとそこから南南西に延びる、基盤地質の高まりの上に形成されており、何らかのテクトニックな関連性を持つ火山群だと考えられます(この段落は私見です)。
1)焼岳
 上高地の玄関口にそびえる焼岳(やけだけ;2455m)は、登山愛好家だけでなく、上高地を訪れる観光客にも馴染みの山です。百名山の一つでもあります。
 古くは大正時代(1924〜26年)に、比較的規模の大きな噴火(水蒸気爆発型噴火)があり、その際の噴出物(火砕流、泥流)が流れ下って梓川の流れをせき止め、現在の大正池を作ったということも、良く知られています(文献3−a)。

 (文献2−a)によると、焼岳の南側、安房峠との間には、登山対象にはあまりなっていませんが、アカンダナ山(2109m)、白谷山(しらたにやま:2188m)という火山があり、焼岳と合わせて、火山群を形成しています。
  このうち、焼岳とアカンダナ山は活火山に認定されています(文献3−a)、(文献3−b)。

  焼岳火山群は、穂高から続く標高が高まった部分(基盤標高は約1500m)に噴出した火山群です。

 (文献2−a)によると、焼岳火山群としての活動は、古期と新期に分けられ、古期が約12−7万年前の活動です。新期の活動は約2.6万年前から始まり、現在の焼岳の山体や、アカンダナ山などを形成しました。
 なお(文献3−a)では、新期の活動を約1.5万年前からとしています。また(文献3−b)によると、白谷山火山は、約1万年前には活動を休止し、その後にアカンダナ火山が活動して白谷山の山体を覆うように山体が形成されたとされています。

 焼岳は非常に活動的な火山で、前述の大正時代の噴火だけでなく、有史以来(西暦600年頃以降)も、水蒸気噴火を主体とした活発な火山活動を起こしていることが記録に残っています。そのため気象庁では「常時監視火山」に指定しています。(文献3−a)
 
 上高地から穂高連峰一帯では、しばしば群発地震が起きることがありますが、焼岳火山群の地下にあるマグマの活動との関係が推定されています(文献3−a)。
2)乗鞍岳
 乗鞍岳(のりくらだけ:3026m)は、北アルプスの一部とする場合もありますが、実際は北アルプスの他の山々との間をつなぐ縦走路もないし、途中の安房峠で稜線部の標高が落ちる形となっていますので、どちらかというと独立峰的な火山です。日本で3000mを超える火山性の山は、富士山、御嶽、及びこの乗鞍岳の3つしかありません。百名山の一つでもあります。

 (文献2−b)によると、この乗鞍岳もまた、基盤地質である「丹波―美濃帯」(ジュラ紀付加体)が、標高約2400m付近まで高まった所の上に形成された成層火山です。従って、実際の山体の大きさは標高分の3000mあるわけではなく、1000m弱、ということになります。

 (文献2−b)によると、現在の火山体の形成は、約30万年前に遡ると推定されています。その後、継続していくつかの火山活動が生じて徐々に火山体が積み重なって標高が高くなっていったと推定されています。

 現在の山頂付近では、主峰である剣ヶ峰以外に、摩利支天岳(まりしてんだけ)、大黒岳(だいこくだけ)、恵比寿岳(えびすだけ)、富士見岳(ふじみだけ)などの多数の小ピークが集まっており、その間には爆裂火口跡である権現池などの火口湖、凹地があり、比較的新鮮な火山地形を見せています。
 
 現在はドライブウエーが山頂部の一角、畳平まで通じ、簡単に登れる3000m峰としても人気ですし、山麓の乗鞍高原は、夏はハイキング、冬はスキー場としてにぎわっていますが、実際は、活動的な活火山です。
(文献3−c)でも、乗鞍火山は「常時監視火山」としての「活火山」に認定されています。

 (文献3−c)による最近の活動史としては、約9600年前と約9200年前には剣ヶ峰で噴火(マグマ噴火)が起こっています。それ以降も、約9千年前から約2千年前にかけ、噴火箇所は不明ですが、4−5回の水蒸気噴火が起こったと推定されています。最新の活動は約2千年前で、恵比寿岳にてマグマ噴火活動が起こったと推定されています。
 その後、顕著な噴火活動は確認されていませんが、乗鞍岳の地下ではしばしば地震活動が確認されており、かなり活動的な火山と言えます。 
3)御嶽
 御嶽(おんたけ:3067m、注1)は、乗鞍岳の南南東 約25kmの位置にある、大型の成層火山です。百名山の一つでもありますし、古くから「御嶽講」(おんたけこう)による信仰の山として知られています。

(注1;おんたけの山名は、「御岳」、「御嶽山」、「木曽(の)御嶽山」とも表記されますが、ここでは「御嶽」に統一します)

 最近では、2014年に、突然、水蒸気爆発を起こし、58名の登山者が亡くなる(これとは別に行方不明者5名)という、戦後最大の火山災害も起こしました(文献4)。
 なお御嶽は、(文献3−c)においても、「常時監視火山」としての活火山に認定されています。

 御嶽の山容は、南北に長い山頂部を持つ独特の形をしており、特に東や西から見ると、その特徴が良く解ります。山頂部には、最高峰の剣ヶ峰(3067m)の他、摩利支天山(まりしてんやま:2960m)、継母岳(ままははだけ:2867m)、継子岳(ままこだけ:2859m)、王滝山頂(2936m)などの多数の峰があるとともに、「一の池」から「五の池」を含む、多数の火口跡を持っていて、新鮮な火山活動跡を見せている点は、前述の乗鞍岳にも似ている山容です。

 (文献2―c)によると、御嶽もまた、基盤地質(主に白亜紀の飛騨流紋岩)が約1400−1800mまで高まった部分に形成された火山です。乗鞍岳よりは上げ底部分は少ないですが、実際の山体の大きさは約1500m程度と言えます。
 
 (文献2−c)によると、御嶽の活動史は、古期と新期に分けられ、古期は約40万年前からの活動と推定されています。古期火山活動では、複数の火山体が重複してできたと推定されており、また噴出した火山岩も、玄武岩、安山岩、デイサイトと、性質の異なる火山岩が噴出したとされています。

 古期火山活動がいつまで続いたかは不明ですが、その後、長い平穏期が続き、その間に古期火山群は徐々に浸食されていったと推定されています。

 (文献2−c)によると、その後、約10万年前から、新期の火山活動が始まりました。新期のうち、最初期の活動ではデイサイト質火山活動で、爆発的噴火を起こし、火山体の中央部に、約5kmのカルデラが形成されました。その後の活動で、カルデラ内は溶岩類でほぼ充填されました。
 その後、約6万年前には、摩利支天山などの安山岩質の小型成層火山が南北に並ぶように形成されました。更に最後に山頂部の北端に、継子岳が形成されたと推定されています。

 なお、(文献3−d)では、新期の活動を、大きく継母岳火山群と、摩利支天火山群の活動の、2つに分けています。
 上記のカルデラの形成の後、まず約9−8万年前に継母岳火山群が活動してカルデラ内を溶岩類で埋めたと推定されています。引き続いて約8―5万年前には、摩利支天火山群が活動し、その火山活動の結果、合計8つの小型成層火山が南北に並ぶような現在の山容が形成された、と説明されています。

 なお、御嶽の山麓に広がる開田高原は、約5万年前に生じた、御岳山体の大崩壊により、大規模な岩屑なだれが生じ、更に泥流となって(「木曽川泥流」と呼ばれています)流れていった跡にできた、高原状地形です(文献2−c)。
 「木曽川泥流」は非常に大規模な泥流で、濃尾平野まで約100kmも流れ下ったことが解っています。また木曽川の両岸には、河岸段丘上に、その泥流による堆積物が、あちこちで確認されています(文献2−d)。
4)白山
 白山は、北アルプスの山並みから西へ約80kmの位置にある、約27000mの標高を誇る山です。北アルプス以西では最高の標高を誇り、古くから日本三霊山の一つとして、信仰の対象にもなっていた名山です。百名山の一つでもあります。
 また「ハクサンシャクナゲ」や「ハクサンイチゲ」など、「ハクサン」の名を付けた高山植物が多いことでもわかるように、花の名山としても良く知られています。

 白山は、独立した火山で、中部地方の火山群の中でも最も西側にあり、やや特異な火山といえます。古くは白山と、大山などの山陰地方の火山、更に九重山、雲仙岳など九州中部の火山群を含めて、「白山火山帯」というグループ分けがなされていましたが(文献1)、プレートテクトニクスが一般化した1980年代からは「白山火山帯」という名称は使われなくなっています。

 白山は、基本的には中部地方の他の火山と同様に、関東地方沖から西へと沈み込む、太平洋プレートのスラブ上で形成されるマグマ由来の火山だと考えられていますが、フィリピン海プレートの沈み込みの影響を指摘する意見もあり、定説は無いようです(文献5)。
 また、白山の位置する場所の直下での太平洋プレート(スラブ)の深さは、約300kmと推定されており(文献5)、太平洋プレート(スラブ)由来のマグマ生成だとすると、かなり深い位置でのマグマの形成活動と言えます。

 さて白山の火山としての活動史を、(文献2−e)、(文献3−e)に基づき説明します。
 前に述べた各火山と同様に、この白山も実は、基盤地質が盛り上がった場所に形成された火山です。白山の場所での基盤地質(主に濃飛流紋岩(のうひりゅうもんがん:白亜紀)、及び手取層群(てとりそうぐん:白亜紀))の高さは、約2000―2500mまで盛り上がっており、現在の白山火山自体は、その大きな上げ底の上、約300−500mの比高しかない、小型の火山です。

 実際、産総研「シームレス地質図v2」で確認すると、メイン登山道である「別当出会」からのルートは、登山口から、標高 約2300m付近までずっと、白亜紀の堆積層である「手取層群」です。また、白山本峰の南 約6kmの位置にある、別山(2399m)も、火山性の山ではなく、上記の「手取層群」で出来ている山です。白山の北側も標高 約2500m付近まで、濃飛流紋岩層が分布しています。

 白山の火山としての活動は、約40万年前から始まったと推定されています。その後、約14−5万年前には、標高が3000mを超える、「古白山火山」と呼ばれる大きな火山となっていたと推定されています。
 おそらくその火山体は山体崩壊を起こしたものと思われますが、その後、「新白山火山」と呼ばれる火山活動が起こり、最高峰の御前峰(溶岩ドーム)や、弥陀ヶ原と呼ばれる、溶岩流や火砕流で形成された火山性台地を形成しました。
 約4500前に、「新白山火山」のうち東側が、岩屑なだれを伴う山体崩壊を起こし、東側に開いた馬蹄形カルデラ状地形が形成されました。
 また、御前峰や剣が峰の周辺にある火口湖は、比較的最近に形成された火口跡だと推定されています。

 最近の火山活動としては、11世紀、(12世紀)、(13世紀)、16世紀、17世紀、の噴火活動が、古記録に残っており、非常に活動的な火山と言えます。(※( )印のものは、詳細不明)(文献3−e)。
 
(参考文献)
文献1)帝国書院 編集部 編
    「標準高等社会科地図」3訂版 、帝国書院 刊(1977)
      のうち、「日本の地形」の図  


文献2)町田、松田、海津、小泉 編
    「日本の地形 第5巻 中部」 東京大学出版会 刊 (2006)

  文献2−a) 文献2)のうち、
     4−4章 「飛騨山脈の中期更新世以降の火山」の項の、
      4−4−(5)節 「焼岳火山群」の項

  文献2−b) 文献2)のうち、
      4−4章 「飛騨山脈の中期更新世以降の火山」の項の、
       4−4−(6)節 「乗鞍火山」の項

  文献2−c) 文献2)のうち、
      4−4章 「飛騨山脈の中期更新世以降の火山」の項の、
       4−4−(7)節 「御嶽火山」の項

  文献2−d) 文献2)のうち、
      6−2−(2)節 「木曽谷の河成段丘」の項

  文献2−e) 文献2)のうち
      7−1−(1)―1)項 「白山火山」の項


文献3) 気象庁;日本活火山総覧(第4版) Web掲載版 

   文献3−a) 文献3)のうち、「No.50 焼岳」の項
  https://www.data.jma.go.jp/svd/vois/data/tokyo/STOCK/souran/main/50_Yakedake.pdf

   文献3−b) 文献3)のうち、「No.51 アカンダナ山」の項
  https://www.data.jma.go.jp/svd/vois/data/tokyo/STOCK/souran/main/51_Akandanayama.pdf

   文献3−c) 文献3)のうち、「No.52 乗鞍岳」の項
 https://www.data.jma.go.jp/svd/vois/data/tokyo/STOCK/souran/main/52_Norikuradake.pdf

   文献3−d) 文献3)のうち 「No.53 御嶽山」の項
 https://www.data.jma.go.jp/svd/vois/data/tokyo/STOCK/souran/main/53_Ontakesan.pdf

   文献3−e) 文献3)のうち、「No.54 白山」の項

https://www.data.jma.go.jp/svd/vois/data/tokyo/STOCK/souran/main/54_Hakusan.pdf


文献4) ウイキペディア 「2014年の御嶽山噴火」の項
  https://ja.wikipedia.org/wiki/2014%E5%B9%B4%E3%81%AE%E5%BE%A1%E5%B6%BD%E5%B1%B1%E5%99%B4%E7%81%AB

                            2021年12月 閲覧


文献5)日本地質学会 編
    「日本地方地質誌 第4巻 中部地方」朝倉書店 刊 (2006)
      のうち、 第20章「(中部地方の)火山活動」の、
      20−1章「概説」の項、及び、
      図20.1.1 「中部地方の火山と活火山の分布」
   
【書記事項】
初版リリース;2021年12月5日
△改訂1;文章見直し、字句修正、書記事項追加(2021年12月25日)
△最新改訂年月日;2021年12月25日
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