薬師岳-雲ノ平-鷲羽岳-三俣蓮華岳 〜最深部へ〜 S11
- GPS
- 26:57
- 距離
- 48.2km
- 登り
- 3,629m
- 下り
- 3,735m
コースタイム
- 山行
- 3:38
- 休憩
- 0:02
- 合計
- 3:40
- 山行
- 5:53
- 休憩
- 1:15
- 合計
- 7:08
- 山行
- 6:58
- 休憩
- 0:21
- 合計
- 7:19
- 山行
- 7:29
- 休憩
- 0:29
- 合計
- 7:58
天候 | 8/9 曇り時々雨のち晴れ 8/10 晴れのち曇り 8/11 曇りのち一時晴れ 8/12 曇りのち晴れ時々雨 |
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過去天気図(気象庁) | 2017年08月の天気図 |
アクセス |
利用交通機関:
電車 バス
8/9 有峰口ゲート着5:40(雨量規制でゲート開き待ち)発12:15、折立着12:55 8/12 新穂高温泉発14:45(あるぺん号新穂高線、3列シート、往復割引で7,400円)新宿駅西口着21:15 ※今年から登場した折立線。直行便だから定刻(6:30)より早く着いてと願っても叶わない。有峰口ゲートは6時に開く。 ※今回は24時間雨量80ミリを超えたため、ゲートを開けてもらえず、開くこともわからない状況で車内で6時間待った。路線バスも自家用車も引き返す中、最後まで待ってくれたあるぺん号に感謝。 |
その他周辺情報 | 宿泊小屋(3泊とも素泊まり) ・太郎平小屋 太郎平小屋グループの中心に相応しく堂々とした造り。小屋前の広場が気持ち良い。シーツも清潔。ドコモはつながる。 ・薬師沢小屋 水は「源泉掛け流し」状態。2階のテラスが気持ち良い。 ・三俣山荘 2階の展望食堂が気持ち良い。 立寄り小屋 ・薬師岳山荘 ゲート封鎖のトラブルが無ければ第1日の宿であった。眺望と、築浅の清潔さが素晴らしい。 ・雲ノ平山荘 ・双六小屋 最も好きな山小屋。とにかく夕食の時間と重なっても軽食が食べられ、設備充実、間取りも素敵。 ・鏡平山荘 槍穂高を望みながらかき氷が食べられる。 ・わさび平小屋 どうしても通過してしまう立地だが、いつかは泊まってみたい小屋。 立寄り温泉 中崎山荘(奥飛騨の湯):日帰り入浴800円、貸タオル、食堂、休憩室あり。ザックは入口付近に置くため館内清潔。 |
写真
感想
夏の旅が終わる。夢のような四日間だった。なかなかできないアクセスも体験した。以下、詳細を書き留めておこうと思う。
8月9日午前5時半、どうも外の様子がおかしい。もしかしたら1時間早く折立に着いたのか。薄目を開けてカーテンの間から覗くと有峰の文字。しばらくすると、運転手から衝撃の一言。「えー、今、有峰口ですが昨夜の雨でゲートが開かないようです。管理員は早くてもお昼頃に解除できるかもしれない、と言っています」車内がざわめく。まさかの事態に途方に暮れる。このまま新宿に帰ることになるのだろうか。
時々雨がぱらつき、時々外に出て深呼吸をする。先ほどまで話をしていた、富山5時発の路線バス運転手の姿は無い。自家用車の数も心なしか減ったように思える。10時を回り、薬師岳山荘にキャンセル、太郎平小屋に予約を入れた。不思議と苛立つ気持ちも生じず、飽きることも無かった。どうにでもなれ、30人乗りのバスの中で静かに待った。
2度目のパトロールが入って行った。「これでだめだったら(催行を)打ち切るよう言われました」運転手が申し訳なさそうに話す。やがて1時間後、戻ってきた車からOKのサイン。ゲートが開いた。歓声が上がるにはあまりにも時間が経ちすぎていた。皆、太郎平までの時間を思い描いていた。「新宿までお帰りになる方はそのままご乗車ください」結局、折立でほとんどの乗客が降車した。粘り強く待ってくれた運転手に深々と頭を下げ、毎日企画と、となみ観光交通に心から感謝した。
これまで午後5時過ぎに到着する登山者を横目で見て来ただけに、何としても太郎平小屋にはそれまでに着きたかった。逸る気持ちを抑え、ゆっくりと歩き始める。かの有名なアラレちゃん看板の前を通過する頃には、晴れ間が見え始めた。けれども願いも空しく、三角点あたりで再び降雨、何も見えないまま一本調子の坂を上がってゆく。4時前に五光岩ベンチに到着、しばし休む。計画ではここで昼食のはずだった。
ようやく太郎平に到着する頃、薬師岳の姿が見えた。明日は計画どおりあの山に登る。二日目に余裕を持たせていたことが幸いした。午後4時40分、受付を済まし、早速夕食に取り掛かる。広い自炊室で、同じく自炊に来ていた女性と話をした。彼女は、台風の烈しさを話したのちに、驚くことに、テント装備で剱から薬師、黒部五郎、西鎌尾根、大キレットを経て上高地に至る計画を実行していると、こともなげに語っていた。山で会話を楽しみながら食事ができたこと、感謝している。
7時には就いた。夜半、体温が高く寒気も感じた。北アルプス最深部とはいえども、すべて一日で下山できる小屋を選んでいた。気が楽なせいか熱中症に似た症状も朝にはすっかり消えていた。サブザックに一通りの装備を施し、午前4時、小屋をあとにする。夜明けまでおよそ1時間の時刻だったが、道は明瞭だった。
薬師峠のキャンプ場、薬師平を経て、山荘に着く頃にはすっかり青空が広がっていた。雄大な薬師岳だが、登ってしまえばどこが山頂なのか明らかだった。残念ながら剱立山方面の眺望は得られなかったが、目指す方向の見通しは利いていた。数分後、辿った道を引き返す。太郎平小屋には予定よりも45分ほど早く戻った。
今回の山行で最ものんびりとした時間を過ごした。陽射しは強く、日陰のベンチを選び、コーヒーを淹れた。眼前の薬師岳は悠然と構え、登山者たちを見守っている。一つの目的を達し、ゆとりを感じていた。
1時間の滞在の後、薬師沢に向かった。しばらく平坦な道が続き、やがて急降下を始める。渡渉を繰り返しながら、約400メートル標高を下げ、薬師沢小屋に到達した。午前11時すぎ、私の外まだ一組しかいなかった。今日も空いている小屋でゆっくり眠れるのか、そう思っていると、折立から、雲ノ平方向から続々と到着する。多くはテントの入った大きなザックを備えていた。なるほどここにはテントサイトが無い。午後2時頃には定員60名近くが受付を済ませていたようだった。
早めに夕食を済ませることにした。2階のテラスで沢を見下ろしながら食べた。パイナップルがこれほど美味しいとは知らなかった。しばしベンチで横になり、満足して自分のスペースに戻った。けれどもこのとき、小屋前の橋を渡り、取り付き点を確かめておくべきだったことを、翌朝、十分すぎるほど知った。
隣は折立から到着した人だった。横になりながらしばらく話をした。彼もテント装備の人だった。昨日の頼もしき女性のことを改めて驚きながら話し、彼はこの山域での経験を語ってくれた。
計画どおり4時に出発した。橋を渡り、梯子を降りた時点で、正しい道なのか疑念が生じてしまった。高天原に向かうB沢を進んでしまう、どこも噂の急登取り付きに見えてしまった。今から思えば明るければ何のことは無いはず、けれども不安が混乱を呼んでいた。夜明け前から歩き始めるには、それなりの予習と方向感覚が要求される。小屋の人から更に進むべきであることを聞き、ようやく分岐点に辿り着いた。
恥ずかしさと失われた体力のせいで、始めから急登に息を切らした。十枚山の直登や黒姫山の表登山道に満たない距離と高低差、それほど心配をしていなかったはずなのに、雲ノ平端部に到達する頃には座り込みたい衝動に駆られていた。そしてようやく辿り着いた雲ノ平山荘で、霧に包まれ何も見えない悲しさが一層助長された。
そんな悲しみを乗り越え、再び木道を歩き始める。誰ともすれ違わない、誰の声もしない、いつもはそんなシチュエーションを楽しむのだが、ここでは静けさが不安だった。どうしてここを最後の秘境といい、目指すのだろう。同じ霧の中でも尾瀬や奥鬼怒の方が、十分素敵に思えた。
祖父岳への登りは救いだった。木道を離れ、ガレ場を進む。不思議と疲れを感じなくなっていた。霧は一層深まり、ケルンの働きに感謝しながら山頂に到達した。ここでようやく人と出会った。彼も、ここが北アルプスの主要な道であることを、改めて識ったのではないだろうか。
続く岩苔乗越、ワリモ北分岐、ワリモ岳を過ぎ、今日の目的地、そして今山行の目的地に着いた。霧に包まれた鷲羽岳、せめて一瞬でも。ぼんやりと眺めていると、南西方向の白い幕が開かれてきた。瞬く間に、祖父岳、黒部の源流が姿を現す。このまま晴れ行くことを念じながら、ゆっくりと三俣山荘に向け、下り始めた。
青空が広がる。振り返れば、強さを増した陽射しが山頂を照らしていた。これが美しき鷲羽岳。昨年の夏から憧れてきた泰然の姿。満足して、山荘に辿り着いた。そして不安に感じてきた状況を耳にする。鳳凰三山の薬師岳小屋以来の二人で一つ。確実な睡眠不足が脳裏を過った。
展望食堂でカレーライスをいただく。美味しかった。たっぷりのご飯も嬉しかった。楽しみにしていたサイホンコーヒーは諦めることにした。ただでさえ眠れぬ夜が待っている。テント場に水を運ぶ姿を目にし、不意にテント装備の二人を思い出した。
午睡は、そのまま夜の睡眠につながった。けれども消灯後、動きの取れなさ、室内の異様な温度上昇により、いとも簡単に受忍限度を越えてしまった。たまらず、毛布を携え、ロビーへ逃げ込む。固いベンチ、肌寒さ、十分に耐えられる環境だった。ようやく眠りに就けた。
午前3時45分、出発。今日はご来光を望めるかもしれない。新鮮で清々しい空気が心地よい。例によってテント場を抜けるのは苦手だ。もう少しで黒部五郎に向かうところだった。ガレ場でもマーキングのお蔭で進路に悩むことは無い。登ること50分、三俣峠に着いた。途中ザックをデポして頂上を目指す。4時50分、三俣蓮華岳、夜明け直前の時間だった。
東の空を睨む。雲間からでもいい、覗いてくれ。8分の滞在で山頂をあとにした。予定どおり双六岳巻道を進む。そんなに下らなくてもいい、想像以上に長い、そして急登が待っていた。そんな巻道を経てようやく双六小屋に到着、何かしようと思ったが、思い浮かばない。ザックも下ろさずに出発した。
何度も振り返りながら離れてゆく。次にここへ来られるのはいつのことだろう。きっとまた来よう、そう言い聞かせながら弓折乗越へと登ってゆく。この山行最後の登りである。ゆっくりと、噛みしめながら登った。徐々にすれ違う人の数も増えていた。
鏡平山荘で、ラーメンかかき氷か迷ったが、結局レモン味を選んだ。槍も穂高もすっかり隠れて、池にその姿を映さない。少しだけ落胆して、先を急いだ。下山後の三点セットをゆっくり味わうために慌てず急いでいるつもりだった。
ところが小池新道では、これから北上する登山者が列を成す。全く途切れない。まるで大団体の隊列のように皆同じペースで登って来る。結果、すれ違い待ちのアディショナルタイムを取り戻すべく、後半、更に速度を増して進むこととなった。楽しみにしていた秩父沢の滝しぶきを浴びることなく、休むことなく下りてしまった。こういったところを直すのが私の課題である。
わさび平小屋で少しだけ休み、雨がぱらつく中、ひたすら林道を歩く。新穂高温泉駅には予定どおり12時前に到着した。相も変わらず、情けない顔をしていたことだろう。すぐさま、中崎山荘に駆け込む。私にとってちょうど良い湯加減、心行くまま浸かった。そしてそののちは、食事と休憩、かえがえない時間。駅で土産を買い、散歩をしてバスを待った。
新宿駅直行の3列シートは、期待どおり快適だった。眠る間を惜しんで大きな窓から空を見上げる。見事に発達した積乱雲が何本も立ち昇っていた。雲の向こうに回った陽が奥ゆかしく輝く。夢のような夏の旅は、何を残してくれたのだろう。
こんばんは、toshishunです。
昨年8月に私が歩いたコースと一部重なるので、興味深く拝見しました。
雨量が一定量を超えると通行止めという表示は山道ではよく見かけますが、自分自身の山行に直接関わってくるなどということはなかなか想像できないですよね?
6時間45分の待機、お疲れ様でした。冷静に予定通りの山行を敢行されたのは流石です。
薬師岳は昨年登り損ねましたし、三俣蓮華から双六〜新穂高方面も未踏なのでいずれは行きたいと考えております。
今年の夏は南アルプスでしっかりと雨の洗礼を受けてきました。
やはり今年中にあと1回は青空の元、爽快な稜線縦走をしたいと考えております。
toshishun様、こんばんは。
通行止めの件、冷静ではいられませんでした。ここまで来てそのまま帰れるかと、小屋を手配し直したり、富山で1泊して出直す案を模索したり、じたばたしていました。色々手を尽くしてから、どうにでもなれと開き直りました。
太郎平小屋の存在が大きかった。何とか計画の動きに戻せました。
やはりアルプスでは晴天の下、思いきり歩きたいですね。帰ってから写真を眺め、青空や眺望の得られない、その時々の口惜しさが甦ります。私も秋にはぜひ青空とご来光を、と願っています。
kimichin2様
こんにちは。
まずは、予定よりも大幅に遅くなってしまいましたが、ゲートがひらいてくれて本当によかったです。1日目の夕方の青空は、よくがんばられたkimichin2様への、神様からのプレゼントのように感じました。
あいにくのお天気で、いろんなお山は見えなかったことは残念でしたが、きっと、雲の向こう側を想像されながら歩かれたのではないかと思いました。
青空の中のお山歩きは、もちろん素敵な思い出となるのでしょう。
もしかしたら、お天気が悪かった時のお山歩きの方が、逆に忘れることができない思い出となるのかもしれません。そして、次回同じ所にいらした時、思い出の積み重ねが出来て、より印象深い場所になっていくのかもしれません。
無事下山されてなによりでした。
おつかれさまでした。
reochi19様
こんばんは。
高山ではやはり晴天が嬉しい。せっかく苦労しても霧で何も見えないと、やはり
半減してしまいます。
今回の山行では3座で部分的に晴れましたが、もう少しすっきりしたかった。
でもおっしゃるとおり、ずっと晴れていても印象が薄れてしまうのかもしれません。
怪我無く無事に下りることが何より大切ですね。
reochi19様が万全な体調で山歩きを楽しまれるよう祈っております。
journeyともうします。
フォローさせていただいてるのに、コメントを差し上げるのは初めてかもしれません。
いつもレコを拝見しています。
自分のヘタレ山行とは真逆の、一本気な山行スタイルだと思ってます。
三泊四日の長期山行、やはりいろんなことがありますねぇ。
しかも冒頭からトラブル遭遇とは、お疲れ様です。
自分ならあたふたしながら何にも考えられず、その後の山行にも影響がきっと出たことでしょう。
山行終了後のお気持ちは、悔しい、口惜しいお気持ちももちろんあったことでしょうけど、感慨深いお気持ちのほうが強かったんじゃないでしょうか??。
レコを拝見していてグッと来るもんがあり、雲ノ平に飛んで行きたくなりました。
たぶん、山をやってる人間殆どに共通する感覚なんでしょうけど、「だからやめられない」んでしょうか。
これを書いている土曜19日は生憎の天気で、山行休みを余儀なくされており、悶々としております。
あ〜〜〜北プス行きてぇ〜〜、と、気持ちを掻き立てるレコ、ありがとうございました。
journey様
コメントをありがとうございます。
いつもjourneyさんやフォーローさせていただいている皆様のレコを拝見し、
山には様々な楽しみ方があることを知ります。
奥武蔵を中心にされた詳しいレコは、読んでいる人に臨場感を与えてくれるのではないでしょうか。
私も後で思い出せるよう、可能な限り詳しく記載するようにしています。
北アルプスは、たとえ天候に恵まれなくても多くの感動を与えてくれます。
なんの変哲もなく、霧に包まれた、大岩の転がる地帯を歩いていても、
何故かその独特の雰囲気を感じ、そこにいられることに感謝します。
雲ノ平では、霧で何も見えませんでしたが、この時期にあれほど静かなときを体験することは無いのかもしれません。
journeyさん、これからもどうぞ気をつけてお出かけください。そして沢山の”とき”を記していただけますよう。
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