仙丈ヶ岳 〜かの微笑みは 友のために〜 A2
- GPS
- 07:01
- 距離
- 9.1km
- 登り
- 1,126m
- 下り
- 1,113m
コースタイム
天候 | 晴れのち曇り一時雨 |
---|---|
過去天気図(気象庁) | 2014年07月の天気図 |
アクセス |
利用交通機関:
バス
20日(日)5:00(定刻は5:40)戸台仙流荘着、 5:10仙流荘発(南アルプス林道バス1,340円)5:55北沢峠着 復路20日(日)13:00北沢峠発(南アルプス林道バス1,340円)13:50仙流荘着、 14:58仙流荘発(長谷循環バス310円)15:25高遠駅着、 15:30高遠駅発(JRバス関東高遠線520円)15:58伊那バス営業所着、 16:25伊那市(伊那バス営業所)発(中央高速バス3,500円) 20:45(定刻は19:45)新宿高速バスターミナル着 |
予約できる山小屋 |
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写真
感想
竹橋の毎日新聞社前には所狭しと大型バスがひしめき合っている。そして社屋の中、1階ロビーでは多くの登山者たちが受付開始を待ちきれず、そわそわと動き回っていた。「23時55分発長野行き最終列車はこちらにお並びください」はるか彼方に消えかけていたあの頃の情景が重なる。
中学3年の夏、北アルプスの表銀座を縦走し、槍ヶ岳から誇り高き穂高を見て、上高地で梓川の清流を感じ、登山の素晴らしさを知った。その後の私にとって「山の師」は、井上靖の「氷壁」であり、新田次郎の著作群であり、そして恋敵でもあった親友Sだった。高校2年の夏、私たちが涸沢定着で北穂高岳や奥穂高岳を攻めていた頃、Sは一人、槍から大キレットを経た穂高への縦走をいとも容易く成し遂げていた。穂高岳山荘の前で彼と予定どおり会えた時、私はその笑顔を気高き穂高の雄姿に重ね、敬服の念を抱きながら見つめていた。昨秋、山行を開始した時には、この日が来るとは思えなかった。私が再びアルプスに、彼が好きだった山に登る日が訪れることなど。
バスは定刻どおりに出発した。定員のほぼ半数の座席が埋まっていた。途中、石川PA、八王子駅、諏訪SAで休憩、時間調整を行う。南アルプスの女王よ、どうか微笑みたまえ。午前2時を回った頃、私はこの数日間願い続けてきたこの言葉と共にようやく眠りにつけた。
仙流荘には定刻より40分早く到着した。もう夜は明けていた。急ぎコンタクトレンズを入れた頃、他の乗客は南アルプス林道バスの発券に並んでいた。上空には予想を裏切る晴れ間が見え隠れしている。「てんきとくらす」の予報が勝った、私は嬉しくて感謝の気持ちと共に何度も仰ぎ見た。
臨時バスを出していただいたお蔭で、予定よりも1時間早く北沢峠に到着した。夜行疲れと気圧の変化に慣れるため、ゆっくりと登り始める。およそ1000mの標高差とはいえ、奥多摩の急登と異なり、原生林の中、少しずつ高度を稼ぐ。木々の間から日差しが背に降り注ぐ。梅雨明け直前とは思えない、気持ちの良い登山が始まった。
それでも五合目の大滝の頭には予定より1時間50分早く到着した。曇りで何も見えないことを覚悟してきただけに、雲や霧の間から山々が垣間見える瞬間がいとおしかった。やがて森林限界を越え、小仙丈ケ岳に近づく。私はもう一度祈った。
素晴らしかった。優美な姿に時を忘れそうになる。あまりにも上出来で少し不安になり、先を急ぐ。果たして5分も経たないうちに仙丈ケ岳は霧に包まれた。女王の一瞬の微笑みだった。岩場を越え、思わず走りたくなるような穏やかな稜線を進み、右手に薮沢カールと仙丈小屋が見えれば山頂はまもなくである。さすがに白根三山や富士を望む南方の視界は開けない。しかしながら時折見える青空や甲斐駒の雄姿に感謝の念が強まる。久しぶりの3000m峰に吹く風は優しかった。
仙丈小屋に着き、何も見えない薮沢方面に向かいながら軽食をとる。霧が山頂への視界も閉ざす。名残惜しいが、森林限界の上でやがて来たる雨雲や雷雲の下に居たくはない。予定よりも2時間早く行動できただけでも良しとすべき、そう言い聞かせて下山することとした。丹渓新道への分岐、馬の背ヒュッテを通過し、薮沢小屋に近づいた頃、雨が降り始めた。すぐに止まないことを想定し、小屋の軒先で雨具を装着したがおよそ30分で上がった。
五合目からの1時間は例によって落ち着かない時間帯となった。13時発のバスに乗ることを決めたため、少し急いで、雨上がりですべりやすい石や土に注意しながら無心で下りる。10分前に北沢峠に到着、満員のバスは定刻に出発した。
予定では仙流荘から茅野まで直通バスに乗るはずだったが、発車まで3時間あるため、伊那から高速バスを使うルートを選択した。結局6本のバスにより東京から登山口を往復することとなった。伊那市バスターミナルから高速バスに乗り込み、車窓から南アルプスにかかる巨大な積乱雲をぼんやりと見ていた。そして深い眠りに就く前、その雲の向こうにSの笑顔を見た気がした。
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