十文字峠-甲武信ヶ岳-西沢渓谷 〜晩秋、 ランプの小屋にて〜 S3
- GPS
- 26:15
- 距離
- 21.0km
- 登り
- 1,730m
- 下り
- 1,927m
コースタイム
- 山行
- 3:13
- 休憩
- 0:56
- 合計
- 4:09
- 山行
- 6:56
- 休憩
- 1:18
- 合計
- 8:14
第2日 十文字小屋5:15-6:00大山6:20-尻岩7:30-三宝山8:25-9:05甲武信ヶ岳9:15-9:30甲武信小屋9:45-木賊山10:10-徳ちゃん新道分岐11:25-12:50徳ちゃん新道登山口13:05-13:25西沢渓谷入口
天候 | 第1日 曇り 第2日 晴れ |
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過去天気図(気象庁) | 2014年11月の天気図 |
アクセス |
利用交通機関:
電車 バス
第2日 西沢渓谷14:40(山梨貸切自動車バス1,030円)15:40塩山駅 |
コース状況/ 危険箇所等 |
より静かなコース、混まない小屋を選ぶのであればぜひお奨めします。 梓山〜毛木平〜十文字峠 毛木平までは車道を歩き、部分的に少し登り道。登山道に入ってからは沢伝いに緩やかに登り、尾根に出る前にやや急登(八丁坂)となる。地形図とはルートが異なるが道は明瞭、ピンクのテープに導かれれば間違いない。 十文字峠〜大山 夜間でも迷いなく歩けたほど道は明瞭。大山手前の鎖場通過には慎重を期すべき。山頂からは眺望良好。 大山〜三宝山〜甲武信ヶ岳 アップダウンが有り、三宝山への登りは長いが、事前にイメージしておけば大丈夫。樹林帯が続くが武信白岩山付近では岩場を越える。甲武信ヶ岳直下の急登は長くない。 甲武信ヶ岳〜徳ちゃん新道〜西沢渓谷 甲武信小屋に下ったあとの木賊山への登りは避けられないが、ザレ場は慎重に登る。徳ちゃん新道に入ってすぐのやせ尾根も荒天時は注意が必要。ところどころの急坂では落ち葉の下に隠れた滑りやすい山肌に注意。 |
写真
感想
「春を背負って」は、あの二人のために書かれたのではと思えるほど人間味にあふれた素敵な方々だった。あの物語は予想以上に素晴らしく、奥秩父の深い自然の中で織りなす人間模様が巧みに描かれ、読んでいて人目を憚るほど感銘を受けた場面も少なくない。舞台である甲武信ヶ岳に行きたいと常々思っていたのだが、ようやくその機会を得た。そして偶然にも山中徳治さんと宗村みち子さんのお二人から同時にお話を伺える幸運に恵まれた。
この日、十文字小屋の宿泊客は4名、スタッフは小屋番の宗村さんのほか別棟建設のため甲武信小屋から来ていた山中さん(徳ちゃん)ら3名の計8名がランプの灯りの下、共に食卓を囲んだ。食事はおいしく、お話は時間を忘れるほど楽しかった。やがて話題は、9月に一人でビバークした女性の話から地図ロイドの優れた機能へと移り、いつしか消灯の時間を迎えた。三段ベッドのような造りの寝室は居心地がよく、ゆっくり休むことができた。翌日、天候次第では甲武信に登れなくてもよいと思えるほど充実した一夜だった。
特急あずさ3号は定刻どおり小淵沢に到着し、2両編成の小海線小諸行きは既に入線していた。団体が乗り込み、車内はほどなく満員となり、その影響で信濃川上駅には4分ほど遅れての到着となった。期待どおり村営バスは列車を待ってから発車してくれた。乗客は2名、車窓からの紅葉が美しく、さきほどの喧騒をわずかな時間で忘れさせてくれた。梓山まで乗車したのは私だけで、降車の際、運転手から「気を付けて。午後3時頃には一雨来そうだよ」。その微笑みに少し勇気づけられた。
車道を東へ歩き始めるとほどなく陽が射してきた。穏やかな陽気だ。これ以上望むべくもないほど爽やかな歩みが続く。里山の紅葉はピークを迎え、競い合うかのごとく色彩豊かな姿に圧倒される。やがて舗装路が終わりを告げるとほどなく毛木平である。毛木場駐車場はほぼ満車だった。当初の予報どおりだと路上にあふれていたかもしれない。予定どおり東屋のベンチに座って昼食を取る。
ここからは峠までのおよそ2時間の登りだけだ。いつになくゆっくりと、周囲を見渡しながら歩き始めた。瀟洒な佇まいの挟霧橋を渡り、松の葉が降り注ぐ道を緩やかに進み高度を稼ぐ。ピンクのテープに導かれるルートは、地形図のそれとは異なり沢伝いである。途中、水場には十文字小屋の名の入ったカップが置かれていた。文句なしにおいしい。苔むす北斜面の道はやがて急登へと変わり、尾根へと一気に誘(いざな)う。清々しい尾根道を行けば今日の目的地、十文字峠に着く。
小屋で手続きを済ませてから、かもしか展望台を往復することにした。時折やや強めの風が吹くが、まだ急変が心配されるほどではない。展望台までは500m、10分で着く。10分といえども雨具と熊鈴を忘れてならないのは当然だが、あまりにも静かで自然と少し早足になった。展望台は120°程度の視界だが、紅葉美しい山々が望めた。ゆっくりとコーヒーを飲んだのち小屋へ戻った。
ヘッドライトを消すと樹林帯の中、漆黒の闇が広がる。風は強く、熊鈴の音をかき消すようで、負けずに鳴らし続ける。夜明けを待てずに小屋をあとにしたこと、少しだけ後悔し始めた頃、最初の鎖場に差しかかった。もう大山は近いはずだ。慎重に足場を選び、徐々に白み始めた空の下、体を上昇させることにのみ集中する。山頂に着き、黎明の茜色を目の当たりにした瞬間、後悔したことを後悔した。
素晴らしい夜明けだった。富士や名だたる山々が見える訳ではなかったが、一人、山頂で静かに迎えるご来光に相応しい言葉が見つからなかった。晴れの特異日に大胆にも訪れた低気圧が、皆の冷たい視線に耐えきれず早々に退散し、些かふてくされたかのように北方で急速に発達したから稜線を吹き渡る風は強く冷たい。これからの道程を考えても長居は無用である。今日一日の無事を祈り、出発した。
急な斜面を下り、再び樹林帯へと入る。今日は樹林帯の縦走で助かった。強風に晒され続けると何より気力の低下が著しい。評判どおりのアップダウンだが、昨夜の安眠のお蔭で順調に歩を進められた。そしていよいよ今日2峰め、三宝山への長い登りに取り掛かる。体が温まると風により適度に熱を奪われる、その繰り返しにより大した発汗もせず埼玉県最高峰に到着した。ベンチでもあれば遅い朝食を取ろうと考えていたが、水分補給のみですぐに出発、甲武信ヶ岳に向かう。
山頂からは雲に隠れた八ヶ岳、国師から金峰への稜線、そして雪を少しだけ纏った富士の姿が望めた。いつものようにその美しさに時を忘れそうになったが、今日は冷たい北風がそれを許さなかった。写真に託し、早々に下る。徳さん不在の甲武信小屋前で遅い朝食を取り、最後の峰である木賊山を目指す。
木賊山から新道分岐までの1時間と少しの道のりは長く感じられた。高度を下げるに従い、風は弱まりつつあった。セーターを脱ぎ、水分を補給したのちしばらくすると分岐点(合流点)に着いた。徳さんへの感謝の意を込めて迷わず徳ちゃん新道へ進む。やせ尾根、急坂を過ぎるとやがて気持ちの良い尾根道が続く。落ち葉のクッションがやわらかく、疲労を感じ始めた足を受け止めてくれる。渓谷が近づくに連れ、木々の葉もその色彩を増して行った。
西沢渓谷の遊歩道に着き、軽装の行楽客が行き交う中、バス停を目指す。予定よりも早く、ゆっくりと紅葉を楽しみながらの寄り道にも魅かれたが、期待に反して予想どおりの強風の中、無事に下山できたことで良しとしよう。渓谷入口のバス停では1時間15分の待ち合わせだった。ベンチに座り、青空を見上げながら個性豊かな二人の笑顔を思い出していた。いつかまたあのランプの下で楽しいひとときを過ごしたい、きっと実現しよう、心に誓った。
(末筆ながら事前の情報収集の際、以下の記録を参考にさせていただきました。ありがとうございます)
popieさんの
http://www.yamareco.com/modules/yamareco/detail-366695.html
megoodさんの
http://www.yamareco.com/modules/yamareco/detail-242271.html
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