鳩待峠-笠ヶ岳-湯の小屋温泉 〜静かな尾瀬 後編〜 S7
- GPS
- 08:17
- 距離
- 21.3km
- 登り
- 978m
- 下り
- 1,769m
コースタイム
天候 | 曇りのち晴れ |
---|---|
過去天気図(気象庁) | 2016年06月の天気図 |
アクセス |
利用交通機関:
電車 バス
当日 戸倉(鳩待峠バス連絡所)着3:35(車中休憩)、発4:43(シャトルバス、930円)鳩待峠バス停着5:05 湯の小屋温泉バス停発14:36(関越交通バス、1,450円)水上着15:22、発15:53(上越線)高崎駅着16:56、発17:12(湘南新宿ライン、グリーン車自由席780円) |
コース状況/ 危険箇所等 |
オヤマ田代〜笠ヶ岳 笠ヶ岳までの道は印象に残らないほど快適な道。大きなアップダウンもなく、悪沢岳、小笠を経て、笠ヶ岳直下に着く。ストックを仕舞い、山頂まで岩場を登る。 笠ヶ岳〜咲倉沢ノ頭避難小屋 片藤沼を過ぎると途端に人通りの少なさを実感する。特に地理院地図、昭文社地図記載の尾根伝いの道から離れて歩くようになると踏み跡は心細くなる。倒木に気を取られ道を見失う恐れあり。藪漕ぎ箇所も多い。 避難小屋〜湯の小屋温泉 急坂の登山道が続くが、問題は林道に出てから。私は2度、登山道入口のポイントを捉えそこなった。ならまた湖に迷い出てから戻れなかったのは別の理由。 |
その他周辺情報 | 湯の小屋温泉「湯元館」:バス停至近、日帰り温泉800円、新築綺麗、開放感、洗い場3名分。 |
写真
感想
進むべき道を見失うこと3回、クマとの出会い1回。どうやら道迷いとクマとの遭遇はどちらを選んでも避けられない出来事だったのかもしれない。
計画段階、東か西か大いに悩んでいた。前回の終着点である大清水から出発し、鬼怒沼に向かう東行きコース。前回、通行止め解除前により向えなかった西行きコース。どちらも「静かな尾瀬」に相応しい素敵なコースなのだが、尾瀬号で大清水に3時過ぎ到着、この季節でも夜明け前に出発することとなる東行きコースは、沢沿いの道のちに急登の尾根、遭遇の危険性があまりにも高い。結局、鳩待峠から笠ヶ岳の待つ西に向かうことにした。
ゲートが開いて、シャトルバスは定刻どおり鳩待峠に着いた。風は強く、時折雨粒が顔を叩く。9時過ぎには陽が射すはずだ。団体が尾瀬ヶ原に発ったのち、西に向かう。渋滞ができるほどのメインストリートも、4日前に解禁となったばかり、この時間は前後に鈴の音が聞こえないほど静けさに包まれている。
オヤマ沢田代の分岐で至仏山への道を分けると、途端に寂しさを感じるが、実際には木道が無くなる程度で、笠ヶ岳までは快適な道が通じている。鶯の声が響きわたる。風は止まず、一瞬青空と共に山々が顔を出す。幾度か早朝の陽が射したのち小笠に着いた。後半の怒涛の時を考えると、この2時間の何と穏やかで快適だったことか。
取りつき点でストックを仕舞い、岩場を楽しみながら笠ヶ岳山頂へ。360度、何も見えない。しばらく待っていると、西へ流れていた霧が東へ、これから向かう西の方向を覗かしてくれた。遠く、ならまた湖が見える。果たしてかの湖の畔に行くこととなろうとは。
片藤沼は溢れんばかりに満々と水を湛えていた。写真で見た、青空を映しだす水面を期待していたが、ここでも幽玄の世界が広がっていた。ここから先、道の状態は急速に悪化するかもしれない。いつになく不安に駆られていた。
確かにこれまでの道とは異なり、頼りない踏み跡が目立ち始めた。やがて、その踏み跡は、地理院地図、昭文社の地図で表示される尾根道から大きく逸れてゆく。眼前に巨大な倒木、2度目のそれを越えると、人の作ったものが消えていた。どんなに地図を睨んでも、方向は正しいと勇気づけても、道は見えない。仕方なく戻り、もう一度足元を確かめながら進む。それは緩やかに左へ曲がり、沢を渡っていた。
次に現れるのは笹薮たち。断続的に容赦なく行く手を遮る。熊鈴をぶんぶん鳴らしながら、「通りまーす」「失礼しまーす」「ごきげんよう」、自然に声が出る。さすがにこのあたり「出合い頭の事故」が怖かった。咲倉沢ノ頭避難小屋が近づく。何者かに追われたら逃げ込もう。意味がなかった。扉は外れ、バス停前の待合所状態だった。小屋裏から雲に包まれた武尊山が見えた。
午前10時、ようやく少し晴れてきた。ここからは尾根道の急坂、樹林帯の中、一気に高度を下げて行く。500メートルほど下りてから道は平坦に、林道のごとく広がる。ほどなくヘアピンカーブ、ここがポイントだった。そのままかつて林道だったにちがいない道を進む。突然長さ30メートルほどの崩壊地に阻まれた。おかしい。地図を見て我に返った。進むべきは尾根道。地図を見ず、写真ばかり撮っているからこうなる。うなだれて引き返した。
復帰してからは、なだらかな道を気分よく歩いた。様々な場面に遭遇したが、笠ヶ岳からは下り基調の道、それほど疲労は感じていない。これならば予定よりも早く温泉に浸かれるだろう。小ピークを越えるとほどなく林道出合。
俄かに強くなった日差しの下、舗装路をひたすら歩く。もう熊鈴は要らないだろう。到着後の炭酸水を思い浮かべ、あえてスポーツドリンクを手にしない。やがて湖が見えてきた。おかしい。見えてはいけないのだ。またやったか。地図を手に取る。呆れて言葉が思い浮かばない。今度は引き返すべきか迷った。遠回りすれば目的地にたどり着く。長い時間佇んでいた気がする。時計を見ると13時ちょうどだった。
引き返そう、そう思い、来た道を戻り始めた直後、前方左の茂みからクマが現れた。大型犬程度の大きさ、30メートルほどの距離は有った。野生のクマを見るのは初めてだ。一瞬こちらを見てからのんびりと走り去った。山中、あれほど怖れていたはずなのに、なぜか恐怖心が湧くどころか、少しだけ親しみを覚えた。とはいえ、あと10秒早く歩き始めていたら、熊鈴を外していたら、見事に「出会って」いただろう。
当然、引き返す気にはなれず、湖沿いを歩き、トンネル経由で人里に向かった。途中、畔に車を止めてバーベキューを楽しむご夫婦に出会った。一礼して通り過ぎる。思えば鳩待峠を出てから初めて会った人だった。少し気持ちが昂っていたのかもしれない。予想よりもはるかに早く目的地に着いた。
大きな暖簾のかかる建物前に、主人らしき人が立っていた。早速クマの話をした。「向こうが逃げたんだろ。まあそんなにがっかりするなって」のんびりした口調で返してくれた。解けた。ほかに客はいないようだ。湯船の向こう、緑が眩しい。バスが来るまでの時間、ゆっくりと浸かろう。
コメント
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kimichin2様
おはようございます。
お天気も梅雨の時期にしてはなんとかというところで本当によかったです。
予告されていらした通り、誰にもお会いしない静かなお山歩きでしたね。
お疲れ様でした。
しかしながら、強風なのに霧の状態が続くとは、どれだけ深い霧だったのでしょうか?
群馬県は「かかあ天下と空っ風」の言葉通りもともと風が強いところです。
連れ合いが群馬県出身で、結婚した頃、連れ合いの実家に行って驚いたのは、家族みんなが、朝も夕方も、ニュースのお天気を見ながらでも、かならず風の状態を確認することでした。出会った時に風のことばかり気にするので「どうしてかなあ???」と思っていたのですが、その時納得しました。
『今日の「こ、これは」。』ついに新コーナー登場ですね!!
(以前からあったのに気がつかなかったら本当に申し訳ありません。)
緑モフモフ君が何かを「つかまえたー」というように見えました!!
(想像力が貧困でスミマセン。)
ところで、クマさんと遭遇されたのですね!!
奥多摩に行ってお山に登る前に、地元の方々に御挨拶すると、クマさんのことが話にでます。「奥多摩のクマは臆病だし、おとなしいから大丈夫だよ。ただお母さんと子供の組み合わせは、お母さんが子供を守ろうとして、がっばっちゃうから気をつけないとね。「出会い頭」で会うことが多いから、熊鈴、歌をうたう、挨拶すれば大丈夫だよ!!」と皆様がおっしゃいます。kimichin2様も見えないクマさんたちと会話をされた御様子がレコから伝わりました!!
梅雨時で気候が安定しません。
体調を崩されませぬよう充分お気をつけください。
reochi19様
こんばんは。いつもコメントをありがとうございます。
今回の山旅では、とても充実した、かけがえのない時間を過ごすことができました。
緊張と弛緩、警戒と油断を繰り返し、様々な経験と教訓を得ました。
写真を見ながら振り返ると、夢中で歩いていたから気にならなかったけれど、よく
独りであんなところ歩いていたなあ、と感心してしまいます。
クマ、やはり山中逃げ場のないところで出くわしたら怖い。静かに独りで歩くことを
選んでいるのですから、多少のリスクは覚悟しなければなりません。でも常に共存
できるよう気を配ることは忘れないようにします。
温泉、あまり好きではないのですが、あの湯は、波乱万丈の一日の締めくくりに
相応しい、素晴らしい時間をくれました。貸切だったから尚更です。
道に迷って森から出られなくならないよう、突然道の消える崩壊地で滑落しないよう、
そして不必要な出会いがないように、これからも当たり前のように帰宅できるよう、
十分気を付けます。
reochi19様、この夏も楽しく安全な登山を。
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