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Yamareco

記録ID: 937260
全員に公開
無雪期ピークハント/縦走
槍・穂高・乗鞍

双六岳-笠ヶ岳 〜ここより永遠に〜 S8

2016年08月09日(火) 〜 2016年08月11日(木)
 - 拍手
体力度
9
2〜3泊以上が適当
GPS
21:55
距離
39.5km
登り
3,240m
下り
3,224m
歩くペース
速い
0.80.9
ヤマレコの計画機能「らくルート」の標準コースタイムを「1.0」としたときの倍率です。

コースタイム

1日目
山行
6:53
休憩
0:17
合計
7:10
6:09
6:09
16
6:25
6:25
10
6:35
6:35
10
6:45
6:45
20
7:05
7:09
47
7:56
7:56
16
8:12
8:12
21
8:33
8:33
30
9:03
9:06
53
9:59
10:02
1
10:03
10:07
77
11:24
11:27
21
11:48
11:48
13
12:01
12:01
30
12:31
12:31
4
12:35
2日目
山行
6:53
休憩
1:00
合計
7:53
3:58
15
4:13
4:13
3
4:16
4:16
31
4:47
5:12
24
5:36
5:36
3
5:39
5:39
9
5:48
6:11
6
6:17
6:17
27
6:44
6:45
11
6:56
6:56
14
7:10
7:10
5
7:15
7:15
7
7:22
7:23
50
8:13
8:14
47
9:01
9:01
82
10:23
10:30
0
10:30
10:31
8
10:39
10:40
37
11:17
11:17
34
11:51
笠ヶ岳山荘
3日目
山行
5:58
休憩
1:02
合計
7:00
4:20
12
笠ヶ岳山荘
4:32
5:11
9
5:20
5:42
25
6:07
6:07
40
6:47
6:47
2
6:49
6:49
52
7:41
7:41
155
10:16
10:17
12
10:29
10:29
12
10:41
10:41
12
11:01
11:01
19
11:20
11:20
0
11:20
ゴール地点
天候 8/9曇り 8/10晴れ 8/11晴れ
過去天気図(気象庁) 2016年08月の天気図
アクセス
利用交通機関:
電車 バス
8/8 都庁大型車駐車場発23:00 (毎日あるぺん号新穂高線3列シート最後列割引、9,100円) 8/9 新穂高温泉着5:20
8/11 新穂高温泉発14:45 (毎日あるぺん号新穂高線3列シート、9,400)新宿西口着21:00
コース状況/
危険箇所等
ストックを仕舞わなければならない岩場無し。ルート取りに少し悩む個所は、笠新道下りのガレ場。笠新道の急勾配も、手を使う個所ほとんど無し。笠ヶ岳周辺を除き、静かな山旅を期待できるコース。
その他周辺情報 ・双六小屋 評判どおり設備も接客も文句の無い充実ぶりで、快適な時間を過ごせる。軽食は夜7時まで豊富なメニューの中から選べ、日中も照明が灯る。自炊室、乾燥室、談話室そして何より小部屋の多いこと。一人一組の布団にこだわってくれる。
・笠ヶ岳山荘 到達前の急登に体力を削がれるが、ひとたび上がってしまえばそこは雲上の大展望台。心置きなく槍穂高連峰、剱立山を見渡せる。山頂までは15分程度、滞在時2度登る人も少なくない。乾燥室、食堂兼談話室。(この日は一人一組の布団が割り当てられました)
・中崎山荘(奥飛騨の湯)8:00〜20:00、800円、レストラン、休憩室あり。ザックは入口に集約するため、内部の混乱が少ない。(私は3時間弱、もの思いに耽りのんびりしていました)
新宿西口23時発、新穂高温泉直行バス。
2
新宿西口23時発、新穂高温泉直行バス。
5時25分、快適だったバスに別れを告げ出発。
2
5時25分、快適だったバスに別れを告げ出発。
帰りに必ず寄ります。朝8時から開いている日帰り温泉前を通過する。
1
帰りに必ず寄ります。朝8時から開いている日帰り温泉前を通過する。
新穂高登山指導センターで登山届を提出する。
1
新穂高登山指導センターで登山届を提出する。
賑やかなゲート。ロープウェー駅前を通過してきた人は、ここのポストで届け出る。
3
賑やかなゲート。ロープウェー駅前を通過してきた人は、ここのポストで届け出る。
出発後1時間、少し明るくなってきた。
1
出発後1時間、少し明るくなってきた。
笠新道分岐。大分、体も慣れてきた。
1
笠新道分岐。大分、体も慣れてきた。
わさび平小屋通過。
1
わさび平小屋通過。
ひとときの涼。
7時、小池新道へ。
1
7時、小池新道へ。
武骨な石畳を行く。歩きやすい。
1
武骨な石畳を行く。歩きやすい。
秩父沢出合。多くの人が休んでいた。
1
秩父沢出合。多くの人が休んでいた。
チボ岩。大分、大岩歩きになってきた。
1
チボ岩。大分、大岩歩きになってきた。
未だ晴れず。依然として心の目が必要である。
1
未だ晴れず。依然として心の目が必要である。
まだ花を愛でる余裕も有る。
2
まだ花を愛でる余裕も有る。
9時、シシウドヶ原通過。そろそろ霧は退散しなさい。
2
9時、シシウドヶ原通過。そろそろ霧は退散しなさい。
青空が顔を覗かせる。
3
青空が顔を覗かせる。
唐突に木道現れる。絶え間なく下山者が下りて来る。きっと昨日の好天を十分に味わってきたのだろう。羨ましい。
2
唐突に木道現れる。絶え間なく下山者が下りて来る。きっと昨日の好天を十分に味わってきたのだろう。羨ましい。
熊の踊場。クマは、、暫く遭わなくて構いません。
4
熊の踊場。クマは、、暫く遭わなくて構いません。
鏡池到着。ちょっぴり槍穂、西鎌尾根。
6
鏡池到着。ちょっぴり槍穂、西鎌尾根。
デジカメでもう1枚。
5
デジカメでもう1枚。
10時の鏡平山荘。15分休憩、弓折への登りに備える。
3
10時の鏡平山荘。15分休憩、弓折への登りに備える。
鏡池(左手)を振り返る。
2
鏡池(左手)を振り返る。
槍ヶ岳が顔を覗かせる。こののちずっと見守ってくれた。
6
槍ヶ岳が顔を覗かせる。こののちずっと見守ってくれた。
西鎌尾根、その向こうは北鎌尾根だろうか。
2
西鎌尾根、その向こうは北鎌尾根だろうか。
しっかりしたベンチが設けられている弓折岳分岐(弓折乗越)。明日はここで弓折岳へと向う。
1
しっかりしたベンチが設けられている弓折岳分岐(弓折乗越)。明日はここで弓折岳へと向う。
バスの早着にも因るが、計画よりも1時間半早い通過。ここからは稜線歩き、ゆっくり歩こう。
1
バスの早着にも因るが、計画よりも1時間半早い通過。ここからは稜線歩き、ゆっくり歩こう。
双六岳、その向こうに鷲羽岳が見えてきた。
2
双六岳、その向こうに鷲羽岳が見えてきた。
花見平と言うより、晴れていれば槍穂高連峰の見晴台。
1
花見平と言うより、晴れていれば槍穂高連峰の見晴台。
樅沢岳左手に小屋現れる。遠い。
1
樅沢岳左手に小屋現れる。遠い。
双六池を左手に見ながら小屋へと近づく。
3
双六池を左手に見ながら小屋へと近づく。
出発後7時間、双六小屋に到着。最後の30分、かなり堪えたぞ。
3
出発後7時間、双六小屋に到着。最後の30分、かなり堪えたぞ。
4人部屋に3人、5月に予約した甲斐があった。
4
4人部屋に3人、5月に予約した甲斐があった。
で、コーヒータイム。今日はグロワーズカップのコロンビア。こののち小屋のカレーライスをいただき、16時には自炊のドライカレーを食す。
4
で、コーヒータイム。今日はグロワーズカップのコロンビア。こののち小屋のカレーライスをいただき、16時には自炊のドライカレーを食す。
午前4時出発。
大キレットを下る滝雲。
8
大キレットを下る滝雲。
夜明け前の双六岳。
6
夜明け前の双六岳。
ようやく槍穂高連峰の全容を見渡せた。
5
ようやく槍穂高連峰の全容を見渡せた。
双六岳山頂、その向こう三俣蓮華岳。
4
双六岳山頂、その向こう三俣蓮華岳。
燕岳方向から昇るはず。
3
燕岳方向から昇るはず。
さあ、心もカメラも準備は整った。
3
さあ、心もカメラも準備は整った。
午前5時ちょうど、ご来光を得る。
5
午前5時ちょうど、ご来光を得る。
8月10日、最初の光。
6
8月10日、最初の光。
瞬く間にその強さは増す。
9
瞬く間にその強さは増す。
西には雲海が広がり白山が浮かぶ。
4
西には雲海が広がり白山が浮かぶ。
三俣蓮華岳、目覚める。
5
三俣蓮華岳、目覚める。
そして、かの山たちも。
3
そして、かの山たちも。
黒部五郎、はるか薬師も。
7
黒部五郎、はるか薬師も。
双六平と登山者と槍ヶ岳。
5
双六平と登山者と槍ヶ岳。
双六平から山頂を振り返る。360度の大展望をありがとうございました。
5
双六平から山頂を振り返る。360度の大展望をありがとうございました。
双六小屋にも大いなる感謝を。
4
双六小屋にも大いなる感謝を。
テント場と双六池、そして樅沢岳。
3
テント場と双六池、そして樅沢岳。
縦走路を行く。
花見平と大ノマ岳、その向こうに抜戸岳。
3
花見平と大ノマ岳、その向こうに抜戸岳。
弓折乗越。昨日と違い、素晴らしき眺望。
4
弓折乗越。昨日と違い、素晴らしき眺望。
弓折岳山頂は、登山道から少し離れている。
2
弓折岳山頂は、登山道から少し離れている。
大ノマ岳。大ノマ乗越から最初の試練。
6
大ノマ岳。大ノマ乗越から最初の試練。
双六岳を振り返る。
6
双六岳を振り返る。
大キレットからまた滝雲が流れ出す。
4
大キレットからまた滝雲が流れ出す。
コントレールは、今日も美しく青空を走る。
5
コントレールは、今日も美しく青空を走る。
稜線上を歩く単独行者。こののち、移動中も、山荘でも様々なことを教えてくださった。
4
稜線上を歩く単独行者。こののち、移動中も、山荘でも様々なことを教えてくださった。
大ノマ岳を越えると、抜戸岳の大きな存在感。
3
大ノマ岳を越えると、抜戸岳の大きな存在感。
そろそろ双六岳往復の疲労が出始めた。昨年の聖岳高速往復の反省が全く活かされていない。
3
そろそろ双六岳往復の疲労が出始めた。昨年の聖岳高速往復の反省が全く活かされていない。
秩父平を通過し、9時を回った。奇岩を楽しむ余裕はない。
3
秩父平を通過し、9時を回った。奇岩を楽しむ余裕はない。
本日2度目の急登。長い。この1時間半で体力を9割方費やした。
2
本日2度目の急登。長い。この1時間半で体力を9割方費やした。
ので、抜戸岳の往復は当然のごとく見送る。
2
ので、抜戸岳の往復は当然のごとく見送る。
笠新道分岐。ザックが4個デポしてあった。まさか1日で笠ヶ岳を往復するのであろうか。
2
笠新道分岐。ザックが4個デポしてあった。まさか1日で笠ヶ岳を往復するのであろうか。
笠ヶ岳現る。徐々に近づくこのコース、気持ちがよい。
7
笠ヶ岳現る。徐々に近づくこのコース、気持ちがよい。
抜戸岩。涼しく、立ち止まる誘惑を払いのける。
3
抜戸岩。涼しく、立ち止まる誘惑を払いのける。
笠ヶ岳肩に建つ笠ヶ岳山荘。このあと3度目の絶望的な急登が待っている。見上げる写真は撮れず。
3
笠ヶ岳肩に建つ笠ヶ岳山荘。このあと3度目の絶望的な急登が待っている。見上げる写真は撮れず。
11時50分、山荘着。ほぼコースタイムどおり。笠ヶ岳往復?、明日にすべし。
2
11時50分、山荘着。ほぼコースタイムどおり。笠ヶ岳往復?、明日にすべし。
山荘内2階。ところで誘導灯と非常用照明は頼もしいが、、
2
山荘内2階。ところで誘導灯と非常用照明は頼もしいが、、
昼食、コーヒー後の穂高岳たち。圧倒的な存在感。
8
昼食、コーヒー後の穂高岳たち。圧倒的な存在感。
樅沢岳の向こうに槍穂高連峰。この山荘の素晴らしさ、思い知らされた。
4
樅沢岳の向こうに槍穂高連峰。この山荘の素晴らしさ、思い知らされた。
その雄姿、何度でも。この眺望、友と共に、永遠に。
6
その雄姿、何度でも。この眺望、友と共に、永遠に。
槍、大喰、中、南。
4
槍、大喰、中、南。
南、大キレット、北穂、涸沢、奥穂。
5
南、大キレット、北穂、涸沢、奥穂。
奥穂、西穂、丸山。
3
奥穂、西穂、丸山。
歩んだ道を振り返る。
6
歩んだ道を振り返る。
霞沢岳、焼岳。
午前4時半、笠ヶ岳山頂に立つ。
3
午前4時半、笠ヶ岳山頂に立つ。
連峰のシルエット。槍ヶ岳の左から昇るはずだ。
3
連峰のシルエット。槍ヶ岳の左から昇るはずだ。
4時50分、山の日最初の光を待つ。
4
4時50分、山の日最初の光を待つ。
そはあらはれず、こころななり。
4
そはあらはれず、こころななり。
霞沢岳の向こうは南アルプスだろうか。
4
霞沢岳の向こうは南アルプスだろうか。
笠ヶ岳山荘、聞きしに勝る素晴らしいロケーション。
5
笠ヶ岳山荘、聞きしに勝る素晴らしいロケーション。
見上げの写真。昨日はとても撮れなかった。
3
見上げの写真。昨日はとても撮れなかった。
5時50分、もう、日は槍を越えた。
2
5時50分、もう、日は槍を越えた。
笠ヶ岳を振り返る。
4
笠ヶ岳を振り返る。
焼岳、乗鞍岳、奥に御嶽山。
3
焼岳、乗鞍岳、奥に御嶽山。
笠新道、あの「崖」を下るのか。
6
笠新道、あの「崖」を下るのか。
稜線を行く。
笠と白馬。
いよいよ笠新道へ。4時間あまりの下りへ。
2
いよいよ笠新道へ。4時間あまりの下りへ。
杓子平まではガレ場の急坂が続く。
3
杓子平まではガレ場の急坂が続く。
約1時間で杓子平通過。
2
約1時間で杓子平通過。
笠新道、上りも下りも写真の少ない理由がわかった。それどころではない。
4
笠新道、上りも下りも写真の少ない理由がわかった。それどころではない。
富山から来た、かの人につられて出発後4時間半で登山口へ。名残惜しくもここで別れた。ありがとうございました。
3
富山から来た、かの人につられて出発後4時間半で登山口へ。名残惜しくもここで別れた。ありがとうございました。
最後は壮絶なる林道歩き。ただただ無心で歩いた。そしてオアシスに到着。
1
最後は壮絶なる林道歩き。ただただ無心で歩いた。そしてオアシスに到着。
ビーフカレー、の前に勿論温泉とコーラ。
6
ビーフカレー、の前に勿論温泉とコーラ。
そして。

感想

 槍と穂高を見渡せる場所に行きたかった。いつものように、人と出会うことの少ないコースを選んだ。何としても9日から休めるよう強い決心のもと、5月に2軒の山小屋と往復のバスを予約した。半ば強引に仕事を終わらせ、月曜夜の直行バスに乗り込んだ。
 揺れの少ない大型バス3列シートのお蔭で快適な夜行を果たし、夜明け間もない5時すぎに新穂高温泉に着いた。登山指導センターで登山届を提出、ゆっくりと歩き始める。静かなスタートだった。慌てる必要はない。今日は、渋滞個所も無く、行き交う人にほとんど気遣いも要らないコース。台風はどこかに去り、荒天の心配も無かった。
 ただ、眺望のみが気懸りだった。槍穂の展望コースを歩きながら彼らを見ることができないほど悲しいことはない。絶え間なく下山者。天気の良い週末を山上で過ごし、存分にその姿を堪能したのであろう。皆満足そうに下っていた。
 緩やかな勾配で高度を増し、小池新道は鏡池に導く。見上げてその姿を目の当たりにしたとき、嬉しかった。しばらく真剣に眺めていると、ほどなく雲に覆われてしまった。必ず山上からまた望むことができる。そう確信して鏡平山荘をあとにした。
 穂高方面からヘリコプターの音がやけに響いて来る。過ぎし日の情景が浮かび、無意識に写真を撮りながら足早に歩んでいた。弓折乗越のベンチには多くの下山者がいたため、休まず歩き続ける。このまま進めば昼過ぎに小屋に到達すること、何のためらいもなかった。
 小屋が見えてからの30分、無意識ではいられなくなった。体が思うように動かない。先ほどまでの余裕が全く無く、何度も立ち止まりながら小屋に近づいた。息も絶え絶えに受付を済ましたのち、小屋前のベンチに倒れ込んだ。今にして思えば、記憶による呼吸の乱れが軽い高山病をもたらしたのかもしれない。
 部屋の設定は十分期待に応えてくれた。小屋の方々に感謝しながらほんの少し休息を得た。談話室でカレーライスをいただき、コーヒーだけは欠かすことなく過ごした。その後の仮眠は仮眠でないほどの時間を費やしてしまい、結果、夜半に何度も目を覚ますことになる。
 午前3時半起床、4時には小屋を出た。山頂迄はほぼ1時間弱、日の出に間に合うためにはこの時間に出なければならない。十分に休息したため、体が軽い。山頂では数名がご来光を得た。その360度の眺望は期待以上のものだった。槍穂高連峰のシルエットは大いなる存在感で見る者を圧倒し、光に映し出される雲ノ平周辺の山々は、美しくたおやかだった。
 いつものように気が急いて、周回遅れのランナーのように慌てて小屋に戻った。こののちは、縦走者へとその身を変えなければならない。弓折乗越を過ぎると前後に人はいなかった。この時間、笠ヶ岳からの登山者がいるはずもなく、しばらく眺望を楽しみながら静かな時間を過ごした。
 けれども2個所のタワ通過で体力を削がれ、小刻みなアップダウンに強行軍の山行であることを感じさせられた。昨日より天候に恵まれている分、水分補給に気を遣い、ペース配分に留意しなければならなかった。槍穂高や白山、振り返れば黒部五郎、双六、三俣蓮華、鷲羽、山々はおだやかに、威風堂々と、この姿を見つめている。それはまるで二人の友に見つめられているかのように。
 抜戸岳への登りは長く、幾度もピークの幻を見させられた。達成感を得られぬまま、道はなだらかな稜線へと続いてゆく。この頃になると前後の登山者は定まっていた。その中に、山荘に着いてからも様々なことを教えてくださった方がいた。彼はこの山域のことを熟知しているのに、知ったかぶりをせず、馴れ馴れしくもせず、真剣に山旅を楽しんでいた。そしてそれは、彼の確かな歩き方から十分に推し測ることができた。
 笠ヶ岳は徐々に、確実に近づいてくる。疲労は感じていたが、私の歩みも安定してきていた。やがて直下の最後の登り。ペンキのメッセージに励まされながら、なぜか山岳部時代を思い出し、気力のみで登った。手続きを済まし、山荘前のテーブルに倒れ込む。類まれなるその眺望に圧倒されながら、のどを潤し、涼を求めた。
 状況によっては二組の布団を3人で使うことになるかもしれません、スタッフが申し訳なさそうに説明した。コーヒーを淹れてから仮眠を取ることにした。昨日の失敗を踏まえ、寝過ぎず午後2時には目を覚ました。この頃になると霧が晴れ、彼らは全容を現わすようになった。槍ヶ岳から西穂高岳へと続くその姿を見つめながら友のことを考えていた。
 そんな感傷を知るはずもないその人は、そこから見える様々な山々について、北アルプスの素晴らしさについて淡々と話してくれた。普段は山小屋で話相手を求めないが、彼との会話はなぜか心穏やかに楽しくすることができた。富山から来た彼は、見慣れた景色の裏返しなのでよく順番を間違える、笑って話してくれた。
 午後3時を過ぎても続々と登山者が到着する。心配したがなんとか一組の布団を確保できた。早めの夕食は、牛テールスープとパン。食後4時には、ほぼ完全に晴れた。槍穂高、剣、立山、薬師、水晶、鷲羽山、素晴らしい光景が広がっていた。このまま夕景を見ていたかったが、明日のご来光も気になった。山の日のご来光、ぜひ見たい。結局、午後5時には横になった。
 笠ヶ岳山頂、午前4時30分、さすがに誰もいなかった。しっかり座れる場所を確保し、その瞬間を待つ。だが、槍ヶ岳の左から現れるはずのその光は、空を茜色に染めて、雲間から射すこともなかった。5時15分、山頂をあとにする。
 なぜか気持ちは晴れ晴れとしていた。待っている間、少しだけ会話ができたからかもしれない。寡黙なOは私と違い、感情を露わにすることはなかった。そしてそれは最期まで変わることはなかった。10代から20代にかけて、彼と会話することは純粋に楽しかった。単独行にこだわったSと三人で登った唯一つの山、奥穂高岳を見つめながら、今回の山はSのために来るはずだったのに、そう呟いた。この景色を永遠に忘れることはないだろう。
 小屋に戻り、下山の準備をする。その人も笠新道を下るという。足手まといにならぬよう、先に出発した。うわさどおり、予想以上の激しい下りが続く。小屋を発ってから4時間、ようやく笠新道登山口に辿り着いたとき、彼は先に居て私を待ってくれていた。わさび平へ向かうという彼に、深く頭を下げたのち、またどこかの山でお会いできる日を楽しみに、そう言うと彼は「きっと会いますよ」笑顔で応えてくれた。そしてそれはOの笑顔に重なった。
 最後の力を振り絞り、林道を早足で歩く。温泉到着は11時、バスの出発時刻まで3時間半あった。いつもより長く浸かり、食後、休憩室で横になった。テレビでは上高地のイベントを伝えている。ようやくヘリコプターが警備のためであったことを知った。上高地から望む穂高の姿は、いつになく美しく感じた。
                     ここより永遠に(親愛なるOに捧ぐ)

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コメント

同じ日に双六小屋に泊まっていました。
こんにちわ。初めてコメントいたします。勝手にフォローさせていただいています。

9日に私も双六小屋に泊まっていました!布団が1人1枚でよかったです。
kimichin2さんと同じタイプの部屋に泊まりましたが、カーテンを閉めると、とても落ち着きました。双六小屋は、談話室が広いし、居心地のいい小屋ですね。

9日はガスでしたが、10日は晴れてよかったです。私は、新穂高に下山しましたが、途中の景色は素晴らしかったです。

kimichin2さんは、笠ヶ岳にいらしたのですね。笠新道、お疲れ様でした。
2016/8/14 15:53
槍穂高を見られて、目的も達成できて、本当に良い山行でした。
3737様
はじめまして。毎回楽しみに読んでいますので、はじめて、に違和感ありますが。
今回は晴れて良かったですね。二度、同じコースや場所を訪れて、天候に恵まれないと
それだけでもう来るか、って思うところ、比類なき根気強さには敬服いたします。
台風がいなくなってくれたのは、3737様のお蔭なのかもしれません。
双六小屋は、本当に非の打ちどころのない素晴らしい山小屋でしたね。設備の充実だけで
なく、スタッフの応対にも大満足です。またぜひ訪れたい山小屋にリストアップされました。
次回も好天に恵まれますよう。それではまた。
2016/8/15 18:11
ご来光は素晴らしいですね
kimichin2 さん  こんにちは
双六岳からのご来光は素晴らしいですね。
徐々に陽が差し込んでくる高揚感が伝わってくるようです。
それとキレットを渡る滝雲・・これはいいですね。
私のほうはちょうど入れ替わりで11日に新穂高から入りました。
双六小屋のテント場に2泊で鷲羽岳に行ってきました。
幸い天候に恵まれて楽しい山行でした。
ただし、双六岳の山頂からは眺望が得られずちょっと残念ではありますが、鷲羽岳からの眺望はあまりにもよかったのでヨシとします。
そうそう、笠新道は急坂というのは聴いてましたが想定以上みたいですね。
おつかれさまでした。
        
                        .
2016/8/16 15:12
山頂でのご来光はいつまでも忘れらません。
TODAY様
コメントをありがとうございます。
双六岳からのご来光、360度の展望は、何も考えずに、かけがえのないときを
享受させてくれます。燕、大天井から昇る朝日、忘れることはないと思います。
鷲羽岳、当初は折立から3泊で縦走も考え、登ることも考えていたのですが、
どうしても槍穂高を見ながらの縦走に拘ることにで、いつか行きたい山リスト
に加えました。
それにしても双六岳のテント場は、最盛期には動けないほどひしめき合うのですね。
9日は疎らでしたから驚きました。
これからもレコを楽しみにしています。
2016/8/17 8:48
槍ヶ岳・穂高連峰を御覧になることができて本当によかったです!!
kimichin2様
こんばんは。

2泊3日の山行、お疲れ様でした。
今回の目的である、槍ヶ岳・穂高連峰を御覧になることができて本当によかったです。

今回は特に、様々な思いを抱えて歩かれていらしたようにお見受けしました。
しかしながら、圧倒的なお山の存在や、御来光、青空、夏の雲の存在、径の起伏などの自然の力に、kimichin2さんが励まされて、少しずつ解き放たれていかれたように感じました。
私もお写真を拝見させていただいているだけで、とても穏やかな気持ちになりました。

今日も一日暑かったです。
お身体には充分お気をつけください。
2016/8/17 21:46
光も空も雲もかけがえのない存在ですね。
reochi19様、こんばんは。
下山後まだ1週間も経たないのに、どこか遠い出来事のような気がします。
夢路を歩いていたのかもしれません。
登山は非日常の時間を存分に与えてくれますが、今回は逆だったのかもしれません。
むしろ山行中の方が、目の前の現実に向き合うことができ、そしておっしゃるとおり、
穏やかな気持ちを得ることができました。
言えなかった言葉を伝えに、感謝の気持ちを伝えに、これからも山に登ってゆく
つもりです。
いつも素敵なコメントをありがとうございます。
2016/8/17 22:31
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利用交通機関: 車・バイク
技術レベル
3/5
体力レベル
5/5
技術レベル
2/5
体力レベル
4/5
無雪期ピークハント/縦走 槍・穂高・乗鞍 [日帰り]
笠ヶ岳(中尾温泉口〜笠新道〜クリア谷周回)
利用交通機関: 車・バイク、 電車・バス、 タクシー
技術レベル
2/5
体力レベル
5/5
無雪期ピークハント/縦走 槍・穂高・乗鞍 [3日]
技術レベル
3/5
体力レベル
5/5
無雪期ピークハント/縦走 槍・穂高・乗鞍 [2日]
技術レベル
4/5
体力レベル
5/5
ハイキング 甲信越 [2日]
双六岳
利用交通機関: 車・バイク
技術レベル
1/5
体力レベル
4/5
無雪期ピークハント/縦走 槍・穂高・乗鞍 [5日]
笠ヶ岳・水晶岳
利用交通機関:
技術レベル
3/5
体力レベル
3/5
無雪期ピークハント/縦走 槍・穂高・乗鞍 [日帰り]
技術レベル
2/5
体力レベル
5/5

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